66話 疑り深きアサイアラント part2
「なぜワタシにそんなことを問う?」
冷めた瞳を往人へと向けるクロエ。寂しそうにしているところを見られるのが恥ずかしいのだろうか。
「え、いや別に……特に理由はないんだけど」
「ちょっとぉ、やっぱりロリコン?」
「違う!」
あらぬ誤解をかけられそうになるのを語気を強めて否定する。特に何も言ってはこないが、アイリスの視線も心なしか冷たいような気がする。
「ワタシは生まれた時からメサイアにいる。なんで、と言われても分からない」
「生まれた時……?」
「ワタシはいわゆる捨て子だ。メサイアの施設の前に捨ておかれていたらしい。そこで育てられた。魔導士としてな」
思っていた以上に重い話だった。知らなかったとはいえ、うかつに他人の事情に土足で踏み込んでしまって猛省をする往人。
「その……悪い。ヤな事思い出させたかな……」
「なにも思わない。親の顔も、なにも知らないから」
そう言って往人から視線を逸らし、明後日の方向を向いてしまう。
往人もそれ以上何かを聞くのも憚られたので、真犯人の手掛かり探しへと戻る。
「でも、正直あんまりのんびりする時間はないのよねぇ」
杖に淡い光を灯しながらリリムスが呟く。ああすることで魔力の流れの痕跡を見つけることが出来るらしい。アイリスも顔の前に、ゴーグルのように魔力の膜を張って辺りを見回している。
「なんで?」
往人はたまに地面に倒れている人を安全な場所へと移動させながら聞き返す。魔力の流れを見ることのできない往人は倒れた人に魔法による後遺症がないかを確認する作業があった。
睡眠や麻痺などといった症状を引き起こす魔法には体のどこかに『痣』が出る場合があるらしい。それが魔法の中心点に近ければその可能性も上昇する、とのことで見ているのだった。
「これだけ大きな規模の魔力障害となるとこの国だけじゃない、世界各国の調査機関の連中が来るわぁ」
アイツみたいにね、と視線を後ろに送りながら、つまらなそうに答えるリリムス。
「はあ!? じゃあ、早く真犯人じゃないっていう証拠を見つけないと……」
「私たちはお終いだ。もとより身元の保証も出来ない立場だしな」
クロエが調査機関のなかでどれほどの強さなのかは分からない。だが、あれだけの実力者が束でかかってきたら、『霊衣憑依』をしても敵わない。どれだけ力があろうとも、結局最後に勝つのは『数』なのだ。
「調査機関の連中が押し寄せてくるまで、あとどのぐらいなんだ?」
「発生時間にもよるが……ノージャの機関員が来るまで、残り二時間あるかどうかだな」
懐から小さな懐中時計を取り出し確認するアイリス。
残り二時間。
当てのない探し物に使える時間にしては少なすぎる時間だった。
「さてと、民家もほとんどなくなって、いよいよ山昇りだけどぉ?」
鬱蒼と茂る木々を恨めしそうに睨むリリムス。無理もない。この気温で山に入れば蒸し暑さで、かなり過酷になるだろう。体力のないリリムスにとってはなかなかにハードだった。
「社まではもうそう遠くはない。文句を言わずに歩くんだ」
「さぁ、頑張ろうぜ。あとちょっとだって」
そう言ってリリムスを励ます往人。
すると彼女は黙って手を差し出した。
「手、繋いで」
「は?」
「社まで手を繋いで一緒に歩いてくれないとイヤ」
強引に往人の手を取ることで歩き出すリリムス。当然アイリスはいい顔をするはずはなく、
「おい、そんな緊張感のない事で……」
「ちゃんと手掛かり探しはするわぁ。モチロン優先で、それなら文句ないでしょう?」
「まったく……」
呆れながらも、渋々歩き出すアイリス。ここで揉めても時間浪費するだけと考えたのだろう。
「あんまりくっつくなよ。歩きにくい」
「ちょっとの道のりなんでしょう? 我慢、我慢」
山といってもそれほど標高があるわけではない。歩く分にはほとんど森を歩くのと変わりはなかった。
生い茂った木々で少し薄暗い中を慎重に歩く四人。幸いというべきか、この森で倒れている人は見当たらなかった。
山に入って二十分ほど歩いたろうか、先頭のアイリスが立ち止まった。
「あったぞ。ここが社だ」
木々はなく、開けた場所に鎮座するそれは、あまり大きくはないが見る者を圧倒するような威厳があった。
「これが聖剣を祭ってある社……」




