65話 疑り深きアサイアラント
少女はノコギリとバールを収め、三人に歩み寄ってくれた。もちろん、真犯人を捕らえることが出来なければ即座に斬りかかって来るだろうが。
「ワタシは、テリブルス王国の魔法調査機関『メサイア』所属のクロエだ」
名を名乗りながら、乱れた髪を整え外套のフードを被るクロエ。やはりアイリスの予想通り、魔法調査機関の人間だった。
『魔法調査機関』
それは人間界で魔法による事件、事故が発生した際、特異性が認められる場合に派遣される組織である。
『ニユギア』にはいくつか国家が存在するが、何処の国でも同様の組織はある。そして、そのほとんどに超法規的な権限が与えられているのも特徴である。
今回のような、書状無しでの重要参考人の強制捕縛などもその一例である。
「テリブルス? ここはノージャ国よぉ。勝手してもいいのぉ?」
調査機関の超法規的権限とは言え限界はある。国家を超えての調査は基本的には禁じられている。今回のクロエの行動は、『ノージャ』の要請がなければ越権行為となり、国際問題にも発展しかねないものだった。
「問題ない。メサイアでは現地で事件に遭遇した場合は他国でも調査可能な規定がある。それは協定も結ばれている」
そう言って、クロエは足早にホテルから外へ出ようとする。
「おい、何処へ……?」
「のんびりする時間が貴様らにあるか?」
どうやらこちらの名も聞くつもりはないようだった。
「……生意気なガキ」
リリムスが恨めしそうに呟いていた。
「貴様に問う。何処を調べる?」
「私はアイリスだ。そうだな……あの山頂の社はどうだ? 取りあえずはベタなところを潰しておくのもいいだろう」
ムッとしながらも律儀に答えるアイリス。彼女の指さす先には、小高い山の頂に小さく建物が見えていた。恐らくは、あれがアイリスの言っていた『聖剣』の納めてある社なのだろう。
「異論はない。貴様らは?」
「チッ……別になんでもイイわぁ」
「俺も構わない。それと、往人とリリムスだ」
態度が気に入らないのか、リリムスは不機嫌そうに答える。往人もあまり関心はしないが、場を悪くしない為にも表には出さなかった。
「あの距離なら歩いても問題はなさそうだな。ついでに周囲を調べながら行こうか」
「ワタシは最後尾で見張らせてもらう。おかしなことをされてはかなわないからな」
冷めた口調で三人の後ろにつくクロエ。
一番、背後から刺してきそうなのはソッチだろ、と往人は内心思ったが口にはせず歩き出したアイリスの後へ続く。リリムスだけは渋い顔をし続けていた。
「……ダーリン。あのガキ、霊衣憑依で殺しちゃわなぁい?」
社までの道を歩きながら、小声でリリムスが話しかけてくる。彼女の事がよほど気にくわないのか、とんでもないことを言い始めている。
確かに、社までの道でもこの事件の調査をする、と言っているのにクロエは往人たちを犯人だと決めつけているのかあまり積極的に調べようとはしていない。
だとしても『殺す』とまで言うのは流石に憚られる。
「……そんなこと言うなよ。きっと巻き込まれて困惑もしているんだろう? 小さいのに可哀そうじゃないか」
「なによぉ。ダーリンはああいうのが好みなのぉ?」
コソコソと二人が話し合っていると、クロエが顔を近づけてくる。
「二人に問う。何を話している?」
「……フン。真犯人をどうやって捕まえるかの相談よぉ。コッチは二人の連携があるから、アンタは離れてなさぁい」
鬱陶しそうに手をヒラヒラさせてクロエを追い払おうとするリリムス。
突っかかって来るかと思ったが、クロエは素直に二人から距離を取った。
「……なぁ、クロエ。なんでそんなに小さいのに調査機関なんかに所属しているんだ?」
往人はそのとき見せたクロエの、少し寂しそうな瞳を見て思わず話しかけてしまった。




