64話 眠り深きアイランド part4
あり得なかった。三人の背中に、まったくの同時に刃を向けるなど物理的に不可能な現象。
「くそっ!!」
背中を斬り裂かれる寸前で、アイリスの蹴りがノコギリの刃を止める。そのまま回転蹴りの要領で少女を弾き飛ばす。
リリムスも雷の魔法をレーザーのようにして少女の体を貫く。だが、少女の体は揺らめきながら消えてしまった。
「幻……!」
ただのこけおどしなのか、少女の幻影にはダメージを与える力はないようだった。唯一反応が遅れた往人だったが、幸いなことにその背中には傷ひとつなかった。
「あぶねぇ……」
もしも本体が自分の所に来ていたら、今頃はバッサリと斬られ血の海に沈んでいた。それを考えゾッと背筋が凍る往人。
アイリスがスッと往人の背後に回り、反応の遅れをカバーする。
「こいつは恐らく人間の魔法調査機関の奴だ。油断するな」
その言葉に往人は握った剣を構え、少女を睨む。
外套をパンパンと軽く叩きながら、ノコギリを腰にしまい。今度はL字のバールのような棒を抜いて構える。先が赤黒く染まっているのが、イヤな想像を搔き立ててしまう。
「貴様たちに問う。この島における魔力障害を引き起こしたのは貴様らか?」
初めて少女が往人たちに向けコミュニケーションを図ってきた。それは質問の形をとってはいるが、ほとんど決めつけているかのような口ぶりである。
「違う、と言えばお前は信じるのか?」
だから、アイリスも敵意を隠さずに答える。そのまま斬りかかりそうな勢いである。
「重ねて問う。ならば反証足り得る物、若しくは人物でもいい。ワタシに示せ」
アイリスにバールを叩きつけながら、そんなことを宣う少女。これでは証拠を見せようにも見せられない。
「こっちは三人いるのよぉ!」
剣に受け止められた少女へと、リリムスがアイリスの背後から雷のレーザーを放つ。脇腹の下を掠めるように突き進むレーザーは、即座に距離を取った少女の抜いたノコギリの刀身で受け止められる。
「証拠になる物はない。だから、行動で示す」
「行動? ならば問う。何をして反証とする?」
少女の問いにアイリスはゆっくりと答えた。
「この事件を起こした犯人を私たちの手で捕まえる。それなら文句ないだろう」
確かに、この睡眠事件を起こした者を捕まえるのが、犯人でないと証明するのには一番早い。
「ちょっとぉ! そんなコト言って、アテはあるのぉ? 犯人がこの島に残っているとは限らないのよぉ?」
そう。犯人が何を目的に島にいる人々を眠らせたかは分からない。すでに目的は果たされ、とっくに島の外へと逃げている可能性だって十分にあった。
そうなっては、目の前の少女のノコギリの餌食である。
だが、一度口から出た言葉を聞き逃してくれるほど、少女は甘くはなかった。
「了解した。ならば真犯人を捕縛するまでワタシが貴様らと行動を共にさせてもらう」




