63話 眠り深きアイランド part3
「これ……寝ているだけ、みたいねぇ」
倒れている人々を見てリリムスが一言呟く。確かに、よく見ると人々は皆、外傷もなく浅くではあるが呼吸もしている。全ての人が寝ているようだった。
「みんな、一斉に眠くなってここで寝た……わけないよな」
「それに、恐らくはここだけではないだろう」
三人はこの異様な光景を起こすことのできる力を思い浮かべていた。
『魔法』
このホテルだけではない。恐らくはこの島全体に、人々を眠りに誘いこむ魔法がかけられている。
三人が起きていられるのは、島にくるよりも先に魔法が使われたからだろう。だとするとマズいことがある。
「コレをやったヤツが島にいるかもねぇ?」
そう。この状況を作り出したのが『魔族』なのか『天族』なのかは分からない。だが、人々を眠らせてさようなら、なんてことはないだろう。
「アイリスの話が本当だとするなら天族がいる可能性があるな」
伝承によれば、この島にはかつて『天界』から失われた『聖剣』が眠っている。それを『天族』が奪いに来ていても不思議ではない。
「でも天族の連中ってぇ、こんな搦め手を好むかしらぁ?」
「普通はないな。だが今は状況が違う。なくはない、と言ったところか」
「魔族の可能性は?」
搦め手を『天族』があまり使わないのなら、『魔族』の仕業の可能性もある。強力な武器であることは変わらないのだから。
「う~ん、あんまり考えられないわねぇ。剣を使って戦うって事をしないからぁ。研究材料目当てならあり得るかもだけどぉ」
リリムスも判断しかねるのか、ハッキリとほ答えなかった。現状ではどちらの仕業なのか分からない。もう少し調べる必要があった。
「取りあえず、島を回ってみよう。この魔法の発生点を見つけてもおきたいしな」
そう言ってアイリスがホテルの外へと出ようとしたその時だった。
ガシャン!
窓ガラスを突き破って何かが飛び込んできた。
それは、なんなのかを確かめるヒマをも与えずに往人へと襲い掛かってきた。
「くっ!!」
咄嗟に剣を抜き、敵からの一撃を何とか受け止める。眼前に迫っていたそれは剣、なのだろうがそう呼称するのはいささかためらわれた。
なぜなら、刀身の部分は先に行くにつれ大きくなり、刃先は四角く揃えられ、刃の部分はギザギザと歪になっている。それはまるでノコギリそのものだった。
「こいつっ! っ!? 女……の子?」
ノコギリを振るっていたのは、見た目十二、三歳ほどの少女だった。赤紫の髪を振り乱し、羽織っていた外套の下はインナースーツ、とでも言えばいいか。ピッチリとボディラインが出る服を着ている。
「このっ!!」
斬り結ぶ両者の横から、猛烈な速度の蹴りが少女の小さな体に叩き込まれた。それはアイリスが往人を助けるために放った蹴り。
意識の外からの一撃に、体をくの字に曲げながらゴロゴロと床を転がる少女。
「うわ……エグイことするわねぇ」
「ふん、この状況なら敵だろう」
アイリスは床に這いつくばる少女を睨みつけながら剣を抜き構える。リリムスもなんだかんだ言いながら杖を構えるところを見るに敵対行動を取っているようだった。
「敵性ありと判断。大規模魔力障害の関連者として捕縛を開始する」
ゆっくりと立ち上がった少女がそう言いながら、三人へ瞳を向ける。透き通るような白い肌に映える黄色い瞳を。
スン、と少女の姿が消える。
三人の背後に、まったく同時にノコギリの刃が振り下ろされた。




