61話 眠り深きアイランド
「あっちぃ……くそっ」
灼熱の陽射しを照り付ける太陽に、無駄だと理解しつつも往人は悪態を吐かずにはいられなかった。
目の前には無限に広がると誤解しそうになる海。足元には太陽に灼かれた砂浜。
ここはニユギアでも屈指のリゾート地、『コウヤミの島』と呼ばれる場所だった。
三人がなぜ、こんな優雅に時が流れる場所にいるのかというと――
時は一晩ほど遡る。
アイリスが見せた古びた一冊の本。それは『ニユギア』について記された歴史書だった。
「そんな本がなんだって言うのぉ?」
リリムスが不思議そうな顔で本を見つめる。
「まぁ待て。ええと、このページだ」
ペラペラと本をめくっていたアイリスが見せたのは、とある島についての伝承を記したページ。
それは、かつてその島には人を喰う妖が存在し、人々は何度となく戦いを挑んだが、その度に大きな犠牲を払って負け続けていた。
だがある時、天から夜空を斬り裂いて剣が降り注いだ。その剣は目には見えない摩訶不思議な炎を纏った面妖な剣だったという。
その剣を以て、人々は件の妖を滅し、島の平和を勝ち取った。後にその剣は『宝剣』として島に建立された社に安置されたのだと、そういう伝承だった。
「まさか、その島に聖剣があるとでもぉ?」
リリムスが素っ頓狂な声をあげる。往人も驚いたような、呆れたような珍妙な顔つきになってしまう。
「アナタ、もっと賢いかと思ったけど?」
「いや、この記述は信憑性がある」
相当失礼な事を言われたが、アイリスは気にせず自信ありげに言った。
「ここの目には見えない炎、という記述。それは今は失われた聖剣の持つ力と一致するんだ」
歴史書の一文を指しながら言葉を並べるアイリス。だが、往人には俄かには信じられなかった。
「でも、それは人間が書いたものだろう? 単なる創作、作り話だってことも……」
『見えざる炎』。
確かに凄い力ではあるが、人間の持つ想像力はなかなかに侮れないものがある。
往人のいた世界でも、本当にはなくとも『魔法』というものは想像され、様々な物語が媒体を問わず創造されてきた。それこそ『見えざる炎』だって、探せばごくありふれた異能だろう。
この『ニユギア』だって人々の想像力が劣っているとは限らない。むしろ魔法が日常にある分、もっとバリエーションに富んだ想像があっても不思議ではない。
だから、往人にはアイリスの持つ歴史書を信じられなかったのだ。
「それだけじゃない。この伝承が書かれた時代、それは天界から聖剣が失われた時代とも一致する」
それに、と付け加えながらアイリスは次のページをめくる。
「この伝承の挿絵。これは天界に残る聖剣の図とほぼ同じなんだ。だからこの島にまだ聖剣が眠っている可能性がある」
「ふぅん。まぁ、ワタシは別にどっちでもいいわよぉ?」
「そうだな、魔界や天界に乗り込む訳にもいかないしいいんじゃないか? 本当にあればめっけものだしな」
決まりだな、と本を閉じて朗らかな顔を見せるアイリス。
「それで、その島って何処なのぉ?」
「ん? コウヤミの島、とあるな」
そういう訳で三人は常夏の島、『コウヤミ』へと来ていたのだ。




