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54話 毒の王 Marbas part5

 振るわれる杖の動きに呼応して空間が揺らめく。揺らめきは段々と大きくなり、一つの形を成す。

 「蛇?」

 それは大蛇。先ほどと同様の毒の大蛇。唯一違うところは、その巨大な体躯が半透明の肉体をしていたことだ。

 「流石にこの濃度だと視認できてしまうな」

 一応は不可視の毒である『病毒』の力。だが、凄まじい濃度で形成されたそれは往人ゆきとたちにも見ることが可能なほどの密度を持ってしまっていた。

 「触れれば終わりだ。一気に取り込まれて即死。さぁ、どう攻略してくれる?」

 「マズいわねぇ……」

 正直、三人とも『病毒』に対する明確な攻略法が見つかっているわけではない。

 往人を乗っ取って現れた、あの存在。魔法を『拒絶』する異能があったからこそ勝利できたようなものである。

 だというのに、あの時の何百倍にもなろうかという濃度の『病毒』を相手にどう立ち回るか。

 「氷の魔法だけではとても追いつかない……っ!!」

 その上、今回は大蛇の形を成し襲い掛かってくる。時間がかかれば病魔に侵され、かといって焦れば大蛇に飲まれる。

 二重苦なのかで往人たちは攻めあぐねていた。

 「これならっ!!」

 往人は『激毒』よって作られた溶岩を利用し、灼熱の炎流を操る。

 「このまま滅菌してやる!!」

 炎流はさながら不死鳥のように煌めきながら、半透明の大蛇へと突進をする。大蛇もそれに怯む様子も見せずに牙を覗かせ嚙みついていく。

 しかし、超高熱のマグマに病原菌の集合体が敵う道理はない。ビクビクと苦しそうに一瞬悶えると、そのまま炎に包まれる。

 「このままっ!!」

 そこで足を止める往人ではなかった。燃え盛る火炎を飛び越え、マルバスへと一気に剣を振り下ろす。

 だが、それでもマルバスは不敵に口の端を歪めている。

 


 「言ったろ? どう攻略するかって」

 手の中の杖が小さく揺れる。

 「あえ?」

 光った、と認識した瞬間、往人の体は貫かれていた。

 何に?

 それは『槍』と形容するべきだろうか。杖の先から伸びた歪な物体が往人の腹部を貫いていた。幾重にも枝分かれしたどす黒い槍は、まるでモズの早贄のように往人の体を縫い留めている。

 段々とマルバスの手が赤く濡れていく。それと対照的に往人の顔は苦しそうに歪む。

 「ダーリン!!」

 「おっと、今動くとこのガキの内蔵はグチャグチャに傷がつくぞ?」

 マルバスが、赤く染まった手に力を込める。一際苦しそうに顔を歪めた往人が小さく呻く。

 「マルバス……!」

 「いつ俺が毒しか使えない、なんて言った? ふっ、勝手にそんな事を思い込むのがガキだな」

 そう、マルバスは『病毒』の力を攻略されると踏んでいた。だから、それを見越した攻撃をすればいい。

 敵は、往人は毒の力が来ると完全に思い込んでいる。そこに攻撃を当てることなどマルバスにとっては児戯にも等しかった。

 「お前も、俺がもっと色んな魔法を使えると教えといてやれよ?」

 「くっ……」

 リリムスは自分を攻めた。マルバスの言うとおりだったから。『魔族』の、学究の徒の集団の中での実力者ならば様々な魔法を使えるのは当然。だが、その考えは魔王であるリリムスだからなのだ。

 『ニユギア』に来て日の浅い往人では、魔法というものに理解が追いついていない往人では毒の力を使い続けている相手は、毒しか使わないと思っても不思議ではないのだ。

 あの状況ではアイリスが主導権を受け取るのも間に合わない。

 


 「う……」

 「ふん、諦めの悪い奴だな。もう動けないよ、貴様は」

 マルバスの言葉にも、往人は腕を伸ばす。それは何かを掴もうとしている。手の届く範囲には何もない。それでも、懸命に腕を伸ばし手を広げている。少なくない血を流しているというのに。

 「ダーリン、やめて! 死んでしまうわ! 聞こえているんでしょう! アナタも女神なら止めなさい!」

 リリムスの悲痛な叫びにも往人は止まらなかった。もちろん、アイリスも往人の中で傍観していたわけではない。往人から主導権を握れなかったのだ。

 (ユキト! やめるんだ! 本当に死んでしまうぞ!)

 「う……うぅおおおおお!!!!!」

 

 その時、往人の手が何かを掴んだ。それは黒く禍々しい光を放ちながら往人の全身を包んでいった。 

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