53話 毒の王 Marbas part4
「がぁあああああ!!!!!」
瞬時に展開した氷の盾と、アイリスによる防御魔法で即死だけは免れた。だが、暴れ狂う毒のレーザーによって往人の腕も足も侵されてしまう。
「ダーリン!」
リリムスがすぐさま駆け寄り回復魔法を施すが、それでも進行を僅かに遅らせる程度でしかなかった。
「ハハハ! だから子供の発想なんだ。その体ではもう戦えまい。そこで魔王が死ぬところをゆっくり見ているといい」
「くそ……!」
残った片足に剣を杖代わりにして立ち上がる往人。たったそれだけの動きで全身から嫌な汗が吹き出し、脳は動くことを拒絶している。
「ほう……あくまで戦いの中で死ぬことを選ぶか」
「俺は死ぬつもりはない。それに見つけたぞ……激毒の攻略方を!!」
マルバスの眉がピクリと動く。
自身が操る毒の中でも威力だけなら最高である『激毒』。その攻略をただの人間である往人が見つけるなどと宣ったのだ。多少なりとも反応するのは無理からぬことだった。
「言ってくれるじゃないか。ただの人間と力任せの女神、その二者で一体何を見つけたって?」
「すぐに教えてやるさ」
そう言うと、往人は白翼を展開した。すでに毒を受け所々に穴の開いた痛々しい白翼を。
「なんだ、たいそうなことを言ってダメージも回復していない翼など……」
「黙ってみていろ、早漏野郎」
傷の残る翼が凍り付いていく。根元からゆっくりと透き通った薄氷に覆われていく。
「喰らえっ!!」
往人が吠える。それと共に翼の薄氷が砕け散る。そして、その破片は鋭利な刃となってマルバスへと襲い掛かったのだ。
「っ!? チィッ!!」
マルバスは『激毒』、ではなく防御魔法で破片から身を守った。その姿を往人は確信していたようにである。
「やはり激毒を使わなかったな」
「貴様……」
「お前の毒は確かに強力だ。だが、その対象は一度に一つだろ?」
往人の指摘にマルバスは歯噛みする。図星だった。
『激毒』は自身が扱う毒の中でも危険度が高い。高すぎたのだ。ただ無秩序に振るえば全ての物を融かしきってしまう。
だから制限を付けた。
毒に侵せるのは毒液が触れた最初の物体だけだと。広範囲に被害が及んでいるのは、高熱を帯び、それによって二次的に融解しているからである。それは時間と共に収まっていく。『激毒』も最初の物体を融かしきってしまえばその時点で毒性を失うのだ。
だから、往人がやってみせたように極小の物体をいくつも放つタイプの攻撃には『激毒』では相性が悪いといえた。対象となる物体が多すぎて毒の精製が間に合わないのだ。
「よく気が付いたな……」
「氷の盾は融かされたのに、防御魔法は斬り裂かれたからな。それに、俺の手と足も激毒を受けたにしてはダメージが少ない」
あの時放たれた『激毒』は氷の盾を毒に侵した、その時点で毒性はほとんど失われていたのだ。だから防御魔法を融かすことはできずにレーザーのようになった圧で斬り裂き、弱まった毒性で往人の手足を侵したに過ぎなかった。
それでも、全身の筋肉が悲鳴を上げるほどの激痛と苦しみを与えるのは流石と言ったところではある。
(よくもあれだけの攻防で見抜いて見せたものだ……)
毒に苦しみながらも反撃をして見せる往人にアイリスは内心、戦慄に近い感心を覚えていた。
魔法というものに触れたのもごくわずかな時間だというのに固有の派生魔法のクセすらも掴んで反撃に転じるなど並大抵のセンスではない。
(奴が鍛えよう、などという訳か)
「フフ、ハハハハハ!!!」
その時、いきなりマルバスが大きく笑いだした。
「流石に三体の人形を退けたと言ったところか。ならば、この後の攻めも当然分かるはずだが?」
マルバスが杖を頭上に掲げる。それは新たなる毒を使う合図。
杖より放たれる不可視なる毒。
「病毒ってやつか!!」




