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52話 毒の王 Marbas part3

 「本来、こんな狭所で使う毒じゃないがねっ!!」

 マルバスは自身にも襲い掛かってくる毒を躱しながら、往人ゆきとたちへ向けてさらに『激毒』を浴びせかける。毒を究めたマルバスならば『激毒』自体は効果がないが、そこから発生する超高熱やそれによって融けた物質は別。その為、今までよりも積極的に動く必要がある。

 「あんまり体を動かしていないからなまっているのではなくてぇ?」

 リリムスが跳びまわるマルバスへ向けて、杖先から冷気を放つ。『激毒』による熱、このまま放っておいたら毒を受けるよりも、その熱で参ってしまう。

 「それは貴様とて同じだろう? 座っているだけで勝利を齎すと言われていたのだから」

 『激毒』の力で、本来空間を凍てつかせるはずの冷気すらもその毒に侵され高温を帯びている。冷たいまま熱を帯びるという異常な現象を引き起こしていながらも、マルバスはそれを自慢にし油断をすることはない。

 「古い盟約に縛られる奴で助かったよ。人間を使われていたら俺の毒も凍っていただろうな?」

 第五位であっても完調のリリムスには叶わない。それを事実として受け入れる。だからこそ、今のこの状況を最大限に利用する。それが『魔族』としての在り方であった。

 


 「まだ終わっちゃいない!!」

 叫びとともに振られた斬撃をマルバスは躱し、返す刀で『激毒』を往人へと与える。

 「むっ!?」

 だが、致死の毒は往人の肉体を蝕むことはない。往人の手の中の何かによって毒は防がれた。

 「氷の盾か……」

 『激毒』に融かせぬ物体は存在しない。だがそれは全ての物体を瞬時に融かす事と同義でなはい。それぞれに融かしきるまでの時間は存在する。

 例えば氷。魔力によって精製された極低温の氷などでは融かすまでに時間がかかる。そのタイムラグを利用して、往人は『激毒』から身を防いでいた。それでもほんの数秒。少しでも反応が遅れれば命はない。

 「ここは……臆さず攻める!!」

 「子供がっ!!」

 荒れ狂う毒の大波を氷で凍てつかせながら、細い針ほどの隙を縫って往人はマルバスへ少しずつ進んでいく。

 時に迫る面での毒には自身の周囲にドリルのように氷の盾を展開して強引に突き進んでいく。

 「この距離、取ったっ!!」

 マルバスの姿が眼前に現れる。

 手の中の剣が白く光り輝く。それは全てを斬り裂く聖なる光刃、『エクスカリバー』。往人はまだその力のすべてを引き出せるわけではないが、それでも今この瞬間においては天下無双の一刃である。

 「はぁああああ!!!!」

 気合を込めて振り下ろされる、袈裟懸けの一閃。それは確かな手応えと共にマルバスの肉体を引き裂いた。冷えたバターを切ったような若干の抵抗を持ちながらも切り伏せられ、崩れ落ちるマルバスの肉体。その光景が教えるのは往人たちの勝利。

 


 「ダメッ! 飛んで!!」

 「っ!?」

 迷っていられなかった。往人はその声を聞いた瞬間に飛んでいた。

 リリムス声が響いたのとほぼ同時に、斬り裂いたはずの肉体から夥しい量の毒液が噴出した。勝った、とその場にいたら骨まで融かされていた。

 「ふん、まだ届かないか……」

 往人の背後で声がした。それはたった今、斬ったはずの男。だが、往人の瞳に映るその姿にはどこにも傷はなかった。

 (幻影か……)

 一つとなっているアイリスが呟く。彼女には覚えがあった。この高温によって作られた状況、幻を見せることのできる手段が。

 「蜃気楼を利用したのか……」

 蜃気楼を使った幻影、斬り裂いた際の抵抗感は融けきる前の石材を利用したのだった。エクスカリバーの切れ味ならば石を斬ることなど容易い。肉との違いも斬ったのが往人だったため分からなかったのだ。

 「切れ味が良いってもの考え物だな!」

 『激毒』の波が再び往人を襲う。

 「斬り裂くっ!!」

 光刃が舞い、毒の波を真っ二つにする。

 だが、その先のマルバスの顔は笑っていた。

 「進歩のない攻めなどすると思うか?」

 

 真っ二つになった毒の断面。そこからレーザーのように真っ直ぐな毒液が往人へと襲い掛かっていった。

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