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50話 毒の王 Marbas

 暗い地の底、古代書院の最下層に不気味な光が淡く灯っている。

 『魔導書』が放つ光。知識を求める者にその叡智を授ける大いなる魔道具。

 『人間界』に秘匿された、その叡智の結晶を手にしようとする魔族が一人。

 「あと少しか……」

 魔導書の『秘法』の全てがもうじき自分の物となる。その高揚感は魔族なら誰もが全てを投げうってでも手にしたいと思うものだろう。

 「ふふ、クーデターか……俺にとっては好都合だった。人間界への干渉の制限。そのせいで場所は分かっていても手だし出来なかった魔導書がこうやって俺の手に……」

 今までは『魔王』だけが独占していた魔導の真髄。完全とはいかないこの状態でも分かる。

 力が溢れ、漲ってくる。

 「今までは、あの女の好きにしていたが奴の時代は完全に終わった。次代を創るのは……」



 「あぁら、次代を創るのは誰かしらぁ?」

 自分以外は誰もいないはずの地下。そこに響きわたった覚えのある声、魔界序列第五位の男『マルバス』が振り向く。

 「魔王……そうか、人形どもでは止められなかったか」

 さして期待していなかったのか、驚きや落胆といった感情は見せなかった。どっちみち、不完全な『秘法』による産物、それなりの時間が稼げれば構わないといったところか。

 「まさか、本当に女神と手を組んだのか? 追われた身とは言え、貴様は魔王だろうに」

 「そのワタシにビビッて、今まで魔導書を探しに行かなかったのは誰だったかしらぁ?」

 リリムスの煽りににもマルバスは感情を揺らがせない。互いに見知った関係、どういった性格なのかは熟知している。

 「俺の魔法は毒に特化しているからな。何かきっかけが必要だった」

 「それがクーデターってわけ……」

 「そうだ。おかげでこうやって魔導の力が手に入る。感謝しているさ」

 そう言って杖を手の中に出現させるマルバス。今までの人形が手にしていたのと同じ、鈍い金色で赤黒い球が先端に嵌めこまれた杖を。

 「人形たちと遊んできたんだろう? だったらどのくらい面倒か理解はしていると思うが?」

 「そうねぇ。かなり面倒ねぇ。でも、それだけよ」

 


 先に動いたのはリリムスだった。

 一瞬で出現させた杖から炎を螺旋状にして放つ。それはさながらドリルのようにマルバスを貫かんと進んでいく。

 「そんな程度でっ!!」

 だが、やはり仮初の肉体で放つ魔法では威力不足。防御魔法で簡単に防がれてしまう。

 「それでも構わないわぁ」

 防がれるのも想定内。リリムスの目的は別だった。

 「マルバスッ!!」

 往人ゆきとの鋭い叫びが響き渡る。その声と共に白き光の斬撃がマルバスの頭上から振り下ろされる。

 「く……っ!!」

 すんでの所で斬撃を回避するマルバス。一瞬、慌てたように後ろへと視線を向ける。

 「魔導書は物理的な破壊は不可能よぉ。そんなことも知らないでいたのぉ?」

 「……」

 マルバスが見たのは『魔導書』。それが斬撃で失われないか気にしてしまったのだ。

 「マルバス! 無関係な人々を大勢巻き込んで、こんなこともうやめろ!」

 「黙れっ!!!」

 往人の言葉に、初めてマルバスが明確な感情を見せた。怒号と共に放たれたのは凄まじい怒り。

 「こんなことだと? 魔導を究めようとする行為をこんなことだと!! たかが人間風情が、女神と霊衣憑依ポゼッションしたからといい気になるな!!!」

  


 『魔族』は学究の徒。つまり、魔法という学問に全てを捧げる事を厭わない者が非常に多いのである。それを魔法の魔の字もよくわからない人間に、『こんなこと』呼ばわりされるのは我慢がならないのだ。

 「魔法の極みたる魔導書が手に入る場所にいながら行動を起こさない魔族はいない! それがたとえどんな犠牲を生むとしてもだ!!」

 「それが無関係な人でもか!」

 「それならば尚更な!!」

 マルバスの叫びに呼応するように、二匹の大蛇が背後より出現する。毒々しい紫色と緑色の蛇。その大きさは人形の使ってきた魔法とは比較にならない強大さだった。

 

 「俺の邪魔はさせない。このまま毒の沼に沈むがいい!」

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