49話 勇者の眠りは頂と共に The_Innovation part2
目を開けると、絶世の美女が優しい微笑みを浮かべて覗き込んでいた。
「うおっ!? っつ!」
驚いて跳び起きた拍子に絶世の美女、『魔王』リリムスと顔をぶつけてしまう。
「いったぁい。ダーリンそんなに急に起き上がると体を痛めるわよぉ?」
「ああ、ゴメン。ちょっとびっくりしてな……」
そういえば、と立ち上がりながら往人は思い返す。自分は何をしていた?
人形との戦いに向けて、アイリスから手渡された札に呪文を刻んでいたところまでは覚えている。
だが、寒さに振るえてきた辺りからどうも記憶が曖昧になっている。
「なぁ、俺は何をしてたんだ? 見たところ人形との戦いも終わっているみたいだけど?」
記憶の糸が切れる前と変わった、辺りの景色を眺めながら往人は言った。
二人の間に流れる空気も戦いの前の緊張感みたいなものが薄らいでいるようにも感じる。
それはこの場での戦いが一段落したことの証左でもあった。
「ダーリンは敵の毒の魔法を受けてたのよぉ。でも、それも終わり。今はダーリンが目を覚ますのを待ってたって所よぉ」
「そうか……また迷惑をかけてしまったか……」
『勇者』として二人から期待をかけられているが、今のところあまり役に立っていないと感じる往人。このままでは、この先に待つ本物のマルバスとの戦いでもろくに戦えずに終わってしまうだろう。
(せっかく頼ってくれたのに……)
自分の意思とは関係なく巻き込まれ、ほとんど成り行きで二人と行動を共にしたとはいえ、誰かに強く頼られたことがあまりなかった往人。内心では嬉しいと感じている部分もあった。
だからこそ、もっと助けになりたいと感じていた。
「なぁ」
「ねぇ」
往人とリリムスの声が重なる。一瞬、互いに黙ってしまうがすぐにリリムスが言った。
「なぁに? ダーリン」
「その、俺をもっと強くして欲しいんだ。二人の助けになれるような。今のままだと足を引っ張ってるし……」
往人の言葉に、リリムスもアイリスも顔を見合わせている。まさか、往人の方からそんなことを言い出すとは思っていなかったから。二人からしてみれば往人は違う世界の人間、『ニユギア』の事情に巻き込んでしまった被害者とも思っていた。
「そんなことないわぁ」
「ユキトは自分に出来ることを精一杯やっていると思っているぞ」
「でも駄目なんだ! 二人は俺を頼ってくれた。伝承に伝わる勇者とは違っても、それでも俺を選んでくれた。だから、もっと助けになりたいんだ! 今はただポゼッションするだけで……」
情けなかった。往人が知っている『勇者』という存在は、もっとなんでも出来てどんなピンチも切り抜けるカッコイイ存在だった。
「そう……だったら、ちょうどいいわぁ」
「え?」
往人がそう考えているのなら渡りに舟。本人が望んでいるのなら強くすることに難色を示す『女神』も反対はしないだろう。現に、往人の言葉をアイリスは否定していない。
「ワタシたちが強くなれるように鍛えてあげようって、二人で相談してたのよぉ」
アイリスも頷く。
「そうだな。君がそう望むのなら私も本腰を入れて鍛えるとするか」
「本当か!?」
顔をパアッと明るくする往人。だが、その望みを叶えるにはまだ一つ障害が残っていた。
「でも、それはこの塔を出たら……ねぇ」
地下深くで待つ、それを打倒しなければ強くなるどころではなかった。
「そうだな。俺、頑張るよ」
少年は決意を込めた瞳で、暗き地の底を見つめた。




