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48話 勇者の眠りは頂と共に The_Innovation

 「う、痛つ……」

 全身の筋肉が訴える痛みでアイリスは目を覚ました。何時間も寝ていたように体中がこわばっている。ギシギシと音が聞こえそうな体を起こしながら、辺りを見回す。

 「あら、ようやくお目覚めぇ?」

 それに気が付いたリリムスが視線だけをチラとこちらへ向ける。座ったその膝にはスゥスゥと小さな寝息を立てている往人ゆきとの姿があった。

 「私は……そうだ、病毒に……」

 そう言って思い出した。自身が毒に侵された身であったことを。もうそれを忘れるくらいに肉体からはきれいさっぱり『病毒』が消え去っていたのだ。

 「お前が治してくれたのか?」

 「ん? ……そうねぇ。うん、そうだわ」

 一瞬、逡巡した後リリムスは自身がアイリスを治療した事にした。別に感謝されたいとか、そういった考えがあったわけではない。だが、あの往人の肉体を使っていた少年の事は伝えない方がいい、そう感じたのだった。なぜかは分からない。別に、そのことでなにかアドバンテージが握れるわけでもない。むしろ情報を共有した方が後々の為にはなるとも思ったが、それでもこのことは自分の胸の内に秘めた方がいいと直感したのだった。

 「そうか。ありがとう」

 「……」

 アイリスへと視線を向けたまま固まっているリリムス。信じられないものを見た、というような目をしている。

 「なんだ」

 「いえ、ちゃんとお礼が言えたのねぇ、アナタ」

 「貴様っ……!」

 心外だといわんばかりにそっぽを向くアイリス。やはり、『魔王』とでは歩み寄りなど期待できない。往人に向けている、あの優しい微笑みも打算込みであるに違いない。



 「ユキトは大丈夫なのか? 彼も病毒を受けていただろう?」

 「ええ、心配ないわぁ。アナタ同様毒は全て消えているわぁ。人間だから回復に少し時間がかかるのねぇ」

 アイリスの質問に、往人の髪を優しく撫でながら答えるリリムス。

 まだ、もう少し目を覚ますことはなさそうだった。

 「ねぇ、ちょっといいかしらぁ?」

 だから、リリムスは切り出した。

 「ん?」

 「これから先、今のワタシたちでは戦い抜くことは困難だわぁ」

 その言葉に、アイリスも険しい表情を浮かべる。

 「その度にダーリンに負担を強いる訳にもいかない。だから、考えたの」

 

 それはあの少年に提示された条件。

 

 「ダーリンを育てようと思うのよぉ」

 「なに?」

 アイリスが驚いたように瞳を見開く。

 「そうすれば、ワタシたちがすぐに助けられない状況でも自衛ができるし、霊衣憑依ポゼッションの負担も軽減できるわぁ」

 アイリスは顎に手を当て考える。確かに、自分も魔王もこの先、元の力を取り戻せるかは分からない。それならば、いっそ往人自身を強くして戦い抜くだけの力を付けるのも一つの手ではある。

 「だがなぁ……」

 アイリスの反応は鈍かった。

 往人を強くする。それは自分たちが往人に『依存』してしまうことを意味してもいた。満足に戦えないから、その代わりに往人を矢面に立たせる。その為に鍛えるとアイリスは考えてしまったのだ。

 「もちろん、全てをダーリンに丸投げするつもりは毛頭ないわぁ。でもね、今のままではダーリンも危険なのよぉ? 強くしておくことは無意味ではないと思うけどぉ?」

 「ふむ、確かにな……」

 言いくるめられている。そんな感情も小さく沸いて来るが、だからと言って『魔王』の言葉が間違っていないのも事実。

 弱体化している二人では護り切れない場面も必ず出てくる。現に、朧げな記憶ながら人形マルバスとの戦いで、往人に助けられたような気すらアイリスは感じていた。

 「そうだな。自衛手段を覚えてもらう位ならアリか……」

 「ワタシは魔法を、アナタは剣技を教えればちょうどいいわねぇ」

 

 (キミたちよりも遥かに強くなるだけのポテンシャルは持っている)


 リリムスは、あの少年の言葉を思い出していた。

 『魔王』も、『女神』も超えるだけの力を、このまだあどけなさすら残る少年が、本当に有しているのか?

 小さく寝息を立てる往人の顔を見つめながら、俄かには信じられないリリムスだった。

 「う……ううん」

 その時、小さな呻き声を上げながら往人が目を覚ました。


 「おはよう、ダーリン」

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