46話 毒が護りし塔 The_Deadly sin part13
「なっ!? 貴様っ!!」
咄嗟に往人の前に飛び出すが、病毒に侵された体では防御魔法の発動が間に合わない。
「がっ……」
その体にいくつもの毒針を撃ち込まれるアイリス。全身を灼けるような痛みが走り、その場にうずくまって動けなくなってしまう。
「ちょっと!? 何やっているのよ!」
「こうでもしないとユキトがやられていた……大丈夫だ、まだ動ける……」
明らかに強がりだった。額からは玉のような汗がいくつも流れ、筋肉も不気味に痙攣を起こしている。このまま無理に戦えば数分と持たずに死んでしまうのは誰の目にも明らかだった。
だから、
「……ボクが行こう。アイリス、君は少し休んでいるといい」
ゆっくりと立ち上がり、ふらつくアイリスの体を支える往人の姿がそこにはあった。
「なんだと!?」
人形が愕然とした表情を浮かべる。当然である。自身の『病毒』の力。それを受けて、ただの人間が動けるなどあり得ない。現に、今の今まで目の前の男は意識も朦朧として倒れていたはずであった。
だというのに、未だ足元も覚束ない様子ではあるが、立ち上がりこちらを睨んでいる。
「そんなことは許されないっ!!」
焦りを打ち消すように、不安を振り払うように人形は手にした杖から毒針を放つ。
時間などかからない、確実な死を与える毒針を。
「……消えろ」
往人が左手を振るう。それだけで『死』を携えた針は薄紫の閃光と共に掻き消されていく。ノートのなかの文字を消しゴムで消していくかのように、スッと簡単に消されていった。
「ダーリン……その力」
リリムスも驚きを隠せないでいた。往人が振るっている力。それはリリムスが手渡した指輪から放たれている。
だが、その力にリリムスは覚えがない。宿で見た時は『秘法』の力とも思ったが、それとは明らかに異質な力だった。全てを拒絶するような底冷えする力。そもそも、魔法なのかさえもリリムスには理解出来なかった。
「なんだ……その力は? 貴様、一体何者だ!!」
それは人形も同様だった。自身の力が消えていく。往人の肉体を蝕んでいた「病毒」の力もそのほとんどが拒絶され、消え失せている。
「まったく……まだ少し早いんだけど、この場合は仕方ないかな?」
普段の往人とは喋り方も、纏った雰囲気も違っていた。何かに乗っ取られたようなそんな空気を感じさせる。
「ああ、そうそう。ボクが何者か、だっけ?」
ラフな感じで人形の質問を聞き返す往人。
「でもゴメンね。キミが知っていい存在じゃあないんだよ」
一瞬で人形の眼前まで迫り左手を突き出す往人。その速度は高速、なんて言葉で形容できるものではなかった。
瞬間移動。
そう表現するしかないような速度だった。
「あ……?」
唖然とした顔で突き出された左手の先へ視線を落とす人形。その瞳に移っていたのは、自身の胴体を軽々と貫き、閃光を迸らせる左腕だった。
「な……に?」
人形は慌てて『益毒』の魔法を発動させようとした。
だが、
「駄目さ」
発動できなかった。突き刺さる左腕によって益毒が拒絶されていた。これでは傷を癒すことは不可能だった。
そして何よりも、
「おっと、キミは人形だったね。人肉を媒体に魔力で造られた」
そう。今、往人たちが対峙しているマルバスは魔法による産物。そして、往人の左腕は魔法を『拒絶』する。
「なんだ……? 俺の体が崩壊を……」
拒絶の力を撃ち込まれ、みるみる肉体が崩壊していく人形。その顔は何が起きているか理解できていないようだった。
「可哀そうに。中途半端に自我を与えるからこうなるんだ。完全に奪うか、人形だと理解させたうえで完全な自我を与えるべきなんだ」
哀しそうな瞳を一瞬させた往人は左腕に力を込める。それだけで閃光はより強く輝き、人形の肉体は完全に崩壊していった。
「さてと、これで終わりだね」
そう呟いた往人の横顔に、黒地に赤のラインが入った杖が突き出される。それは魔王リリムスの杖。
「まだよ……まだ、アナタが何者なのかを聞いていないわ」




