45話 毒が護りし塔 The_Deadly sin part12
目を見開き、仰向けにゆっくりと倒れこむ人形。
突き刺された胴体からは夥しい血液が流れ出ていた。
「意外とあっけなかったわねぇ」
杖を手の中から消失させながらリリムスが呟く。今までの相手と比べてあっさりと倒せたことが不思議に感じている。
「まぁ、病毒の力では対抗するのも難しいって事かしらねぇ……って、ちょっと聞いてるぅ?」
返事のない相方の方をリリムスは向く。そして驚愕した。
「ちょっと!? アナタ、大丈夫?」
苦しそうに膝をつき、肩で息をするアイリスの姿がそこにはあった。ふらつく体を、剣を杖代わりにして何とか支えている。
「奴の病毒がだいぶ効いてきたらしい……情けない事だ」
言葉を発するのもやっと、と言った風に小さく漏らすアイリス。それでも往人のように倒れこまないのは流石に歴戦の強者といったところか。
「ちょっと待ってよぉ。すぐに回復魔法を……」
「私よりも先にユキトを……」
駆け寄り魔法を使おうとしたリリムスを制するアイリス。往人の方へと視線を移すと、うつ伏せで倒れこみ呼吸も小さくなっている。時折ヒュー、ヒューと掠れるような息の音が聞こえる。
「そうねぇ、でもアナタ大丈夫ぅ?」
「私はまだ平気だ。それに奴を倒した今、進行も遅くなる」
それを聞き、リリムスは往人へと歩み寄り回復魔法を発動する。柔らかな薄紫色の光が往人を包んでいく。
だが、
「ちょっと待ってもらおうか」
響く声に、アイリスもリリムスもギョッとして振り向く。
その声は今さっき、確かに倒したはずの人形から聞こえてきたのだ。
「その人間を治されると、霊衣憑依されそうなんでね」
それは幻聴ではなかった。しっかりと状況を把握し喋っている。
見開かれた瞳がギョロっと二人に向けられる。そして、夥しい出血を伴ったまま、人形はゆっくりと立ち上がる。まるで、映像を巻き戻ししているかのように。
「殺せたと思ったか?」
人形が不敵な笑みを浮かべながら聞いてくる。それは勝利を確信しているが故か。
「そうだったわねぇ。アナタ、毒の魔法を扱うんですものねぇ」
毒。
それはある成分が対象に有害な効果を齎す場合に称される言葉。だが、その一方で同じ成分でも有益な効果を齎せば『薬』などと称される場合もある。害を成すだけではない、使い方でその効能が変化する毒も存在するのだ。
マルバスは毒の魔法を究めた者。ならば、薬についても究めたといっても過言ではない。
「流石に致命傷レベルからの回復には時間がかかったがね」
そして、目の前の男は、その『薬』を究めた男の人形。すなわち、その力も使えるということ。
通所の回復魔法を数段上回るレベルの治癒能力を見せておきながら、敢えて謙遜して見せる。
マルバスという男の傲慢が透けて見えるようだった。
時間が過ぎれば過ぎるほどに不利になる『病毒』。即死レベルの傷であっても回復して見せるほどの『益毒』。
「時間稼ぎに特化した魔法ねぇ」
「ああ、この状況では替えが効かないほどに合った魔法だ」
人形が杖を構える。毒の光が迸り、敵を貫く針が放たれる。
「そろそろ終わりにするとしようか」
狙いは未だ動けない往人だった。




