43話 毒が護りし塔 The_Deadly sin part10
「それにしても寒いな……」
往人はしきりに体をこすって寒さを凌いでいる。どうもおかしい。体の表面ではなく、芯から凍えるような寒さである。
「おい、顔が真っ赤だぞ。あちっ、凄い熱じゃないか!?」
心配に思ったアイリスが額に手を当てると物凄い熱だった。それも当然、この時の往人は熱が四十度近くも出ており、いつ倒れても不思議ではなかったのだ。
この凍てついた空間にいたせいで気が付かなかった。
「魔王、このままではユキトが心配だ。やはり場所を……」
「ダメよ」
リリムスはピシャリとアイリスの提案をはねのける。だが、元々橇の合わない者同士、そんな言い方では余計な怒りを買うだけだった。
「なんだと? 貴様、このままではユキトがマズいと言っているんだ。どうしてもと言うなら貴様独りでここにいろ」
往人を抱えて氷の空間を動こうとしたアイリス。
「ここから動いたらワタシが殺すわ」
なんと、二人に杖を突きつけ紫電を光らせるリリムス。その目は冗談を言ってはいなかった。この場から勝手に動いたら何のためらいもなく殺すであろうことは確信できた。
「貴様……ユキトがどうなってもいいのか!」
「回復魔法を使えば進行を遅らせられるわ」
回復魔法はゲームのようにどんな傷や病気もたちどころに癒す万能魔法では決してなかった。本人の治癒能力を爆発的に強化して治癒速度を大幅に上昇させるもの。
つまり、熱などの病気も免疫機能を強化して治癒する時間を短くさせるしかなかった。だが、それでも完治させられるのだが、二人の会話は違和感を与えた。
「どのみち、ここから動かせばダーリンはすぐにでも死んでしまうわ。ワタシたちも一気に発症するわね」
「……」
三人は皆、病魔にその身を侵されていた。高熱を引き起こし細胞が破壊されていく、恐るべき病魔。そしてそれは、ある属性の魔法だった。
「早くここから動いていれば良かったんじゃないのか……!」
それは三体目の放った『病毒』の魔法。目には見えない極小の魔法が肉体を蝕んでいく。
「ここにいたからこの程度で済んでいるのよ。通常気温だったらもっと進行が速いわ」
この場が低温のため、病毒も活動が鈍っているのだ。だからこそ、往人も発熱だけで今は済んでいる。通常であればただの人間では十分と持たない毒なのだ。
「でも、ワタシたちが気が付く位ってことは……」
「っ!? そこかっ!!」
アイリスが何かに気が付き、指先から光の刃を飛ばす。牽制用の小さな光刃。
見つかったナニカはそれを受け止め、姿を現す。
「なかなか上手くは事が運べないな。まさか氷漬けの中に身を置いていたとはね」
現れたのは黒い修道服に身を包んだ青白い髪の男。すでに見慣れたマルバス、その三体目の人形だった。
「挟撃を狙うなら、真っ先に思い出すべき魔法だったわぁ」
人形が漂わせる甘い匂いに顔をしかめながら、リリムスが吐き捨てるように言った。
「とはいえ、キサマら二人も俺の病毒を受けてはいるか。ならば後は時間の問題だな」
「アナタを処分しなければ治療もままならないから厄介なのよねぇ」
両者は会話をしていなかった。互いに好き勝手喋っている。それほどまでに相手に興味がないのだ。
「さてと、女神様? ここはアナタをアテにしないといけないわぁ」
『霊衣憑依』ができず、リリムスの体は土塊で造られている。今、まともに戦えるのはアイリスだけだった。
「一気に終わらせないとマズいんだよな?」
「ええ、持久戦は確実に敗北よぉ。二人で協力して短期決戦といきましょう?」
「さて、俺の持ち手でどうやって時間を稼ぐかね……?」
互いにコミュニケーションも取らないままの戦いが始まろうとしていた。




