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42話 毒が護りし塔 The_Deadly sin part9

 その場に留まりすでに三十分以上は経過していた。

 往人ゆきとたち三人は来るべき敵を待ち、戦闘準備を進めている。

 「なぁ、本当に来るのか?」

 アイリスから手渡されたカードの束に一枚一枚呪文を刻みつけながら往人はぼやく。最初こそ真面目に手を動かしていたが、こうもなんの動きも無いと流石に緊張感も続かなくなってくる。

 「来るわぁ。ワタシの読み通りならねぇ。でも、まだしばらくは動きがないはずよぉ」

 「なんでだ? こっちを追いかけてきてるんだろ? いくら何でも三十分もかかるのか?」

 往人は刻んだ呪文が間違っていないかアイリスから手渡された手本と見比べる。ほんの一文字でも違うと魔法が発動しない、どころかまったく別の魔法になる可能性もあるらしいので飽きてきたとはいえ確認作業は怠れなかった。

 「そうぼやくな。待ちを選択した戦いは長い。下手をすれば何日となる場合もある」

 剣の調子を確認しながらアイリスが励ましてくる。だが、その言葉は余計に往人の心を折ってくる。

 「えぇ……こんな寒い所に何日もいたら死んじゃうかも……」

 今、往人たちがいる場所は先ほどリリムスが氷の魔法で凍てつかせている。人を超越している二人はどうだか分からないが、普通の人間に過ぎない往人には非常につらい環境だった。心なしか唇の色も青紫色になってきたように見える。

 「ゴメンねぇ。でも、ココを動かない方が多分いいわぁ。あ、もし寒いならワタシであっためてあげるけどぉ?」

 艶っぽい動きで往人にもたれかかりながら耳元で甘く囁くリリムス。彼女から香る色香につい意識を持っていかれそうになってしまう。

 「いいよ……それよりも、なんでココなきゃ駄目なんだ? 別に戦いやすいって訳じゃ……」

 ここは他と何が違う訳ではない単なる石造りの階段通路。凍り付いているがそれでこちらが有利に立ち回れる、ということもない。むしろ、体温の低下で不利になる可能性もあった。

 それでもリリムスはこの場所に留まることを選択したのだ。

 「それは私も聞きたいな。私たちはそこまで大きな影響はないがユキトにはこの場は酷だろう。なぜ、それでもこの場所なんだ?」

 「アイツの、マルバスの使う毒の魔法。アレは氷に力に弱いのよぉ」

 リリムスは往人から離れて杖の調整を再開しながらアイリスの質問に答える。

 「アレは水の魔法から派生したモノ。同様に水の魔法から派生して上位魔法に成った氷属性の力の前では本領は発揮できないわぁ」

 


 魔法の力関係。リリムスはそれを語る。水が火を消す、草花が水を吸う、と言った具合に事象に合わせた相性が魔法にも存在する。そして、派生した魔法にはその相性が変わる場合もある。毒の魔法なら炎を消す力は弱まるが、草花に吸収されてもそれを枯らすことで対抗できるといった具合に。

 だが、派生し上位魔法と成った場合だと不利を押し付けられる場合もある。氷魔法は水、およびそこから派生した魔法の上位存在であるため、それらを凍り付かせる事で無効化させることが可能になる。

 もちろん、魔法の使用者の力量差も大きく影響を与えるが、それでも多少なら覆せるほどの相性差が生まれる事もあるのだ。



 「ダーリンには、もう二回霊衣憑依(ポゼッション)をさせてしまっているわぁ。だから少しでも氷の力を高めるためにもこの場を動くのは得策ではないのよぉ」

 そう言ってリリムスはこの場を凍てつかせている氷壁へと視線を向ける。

 今、この場は魔法によって創られた氷のフィールド。再び氷の魔法を行使すればその影響を受け、より強力な力となって戦うことができる。

 往人への負担はこれ以上()いることは極力避けたかった。だから、弱体化した身でも戦える場としてここを選んだのだった。特にリリムスは土塊つちくれで造った体。まともな戦力として数えるのは厳しい状況下にある。

 「そういう訳だからぁ、アナタもなるべく氷の剣技を使う方がいいわよぉ?」

 「そうか、相性か……属性魔法はあまり使わないから気にかけてこなかったな」

 剣の調子を確かめ終えたのか、アイリスは腰から下がる鞘へと剣を戻し肩を重そうに回す。

 その様子を見たリリムスがまた余計な一言を漏らす。

 「なぁに、肩が凝っているのぉ? アナタお年なんじゃなぁい?」

 「先に斬られたいか……?」


 また始まった、と往人は寒さに震えながら二人のやり取りを無視して自身の作業を進める。

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