41話 毒が護りし塔 The_Deadly sin part8
「ふむ、敵に動きが見られないな」
魔力の流れが急に停滞したのを感知して、マルバスは足を止めた。
このまま追い立てて『魔導書』を守らせている迎撃装置との挟撃を狙っていたのだがその策は読まれたらしい。
(……巡回させている迎撃装置も二体が破壊されるし、相当な使い手という訳か)
このまま目的地へ足を運べばこっちが逆に迎撃されてしまう。
「ううん……魔導書による影響か記憶にも若干の齟齬があるし、少々マズいか?」
ズキズキと小さな痛みを訴える頭を軽く振り敵を排除するための策を改めて考える。
昼食時も終わり人々が戻ってきている中に立つマルバス。だが、人々はその特異な男に気が付くことはない。往人たち三人と同様に結界に身を隠しているためである。
そして人形自身も、自分が人形だと気が付かないまま全てを『本物』に都合よく解釈して行動していく。小さな頭の痛みも自分が人形だと気が付かせないためのものだと理解できないまま。
(コレでどこまでやれるか……)
自身の手の中の杖に人形は視線を落とす。自身が有する毒の魔法、相手を病魔に侵す不可視の毒。すぐさま死に至るような力はないが徐々に体を蝕んでいく遅効性の猛毒。
地下の迎撃装置と合わせて効力を発揮する魔法のため、相手が迎撃に徹せられると一気に不利になってしまう。
(チッ、受肉のせいで他の毒がろくに使えないんじゃ仕方ないが……)
本当はそんなことはないのだが、自身が一種類しか毒の力を使えないことを勝手に解釈し、勝手にイラついている。
とはいえ、人形の魔法が挟撃を前提に貸し与えられているのは事実。その前提が崩れた今、非情に立場としては不利になっている。
しかし、本物は気が付けない。全ての人形に自立行動の権限を与え、自分は地下で魔導書の解析に集中している。
(ここは本来ならば待ちに徹するのが定石……だが)
それでも人形は足を進める。壁に隠された通路を開きその先に待つ敵を撃つべく。
何もやけっぱちになって捨て身の攻撃を仕掛ける訳ではない。今はどちらも、どちらかが動くのを待っている状況である。それを見越した準備をしている。
だが、一つ違う点があるならば人形には敵がどこにいるかが分かっている事。その情報のアドバンテージはとても大きな意味を持つ。
(敵の動きから見て、奴らの持つ塔の情報は少し古い。新しく造られた隠し通路の情報は無いと見る)
だから、敵側には人形がどこから来るかが分からない。それならばこの、遅効性の病毒も十二分に武器となり得る。
(敵側は迂闊に動くわけにはいかない。病毒を蓄積させるに十分な時間が稼げる)
本来なら追い立てる中で少しずつ蓄積させていき、迎撃装置の所で動けなくする計画だったが、向こうが動かないなら一気に病毒に侵すことも視野に入ってくる。
(残りの懸念は相手の感知能力次第だが……)
病毒は視認することは不可能だが、魔法である以上魔力の流れは残ってしまう。かなり抑えてあるものの完全にゼロには出来ない。
相手側が高い感知能力を有していた場合、病毒に気づかれてしまう可能性もあった。
(だが、倒されているとはいえどちらも迎撃装置側から接触出来ている……感知能力はそこまででもないと見るか?)
先に倒された人形から往人たちの状況を的確に推察していく人形。
急ごしらえの粗悪品とはいえ、仮にも魔界序列第五位の造った人形、この程度の策を練るなど造作もなかった。
「よし、やはりこちらから動くのが上策か」
そう言った人形の杖先から、見ることは叶わないが確実に身を蝕む病毒が侵入者を襲うべく暗き通路を満たしていった。




