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40話 毒が護りし塔 The_Deadly sin part7

 「何とか間に合ったみたいねぇ」

 そう言って現れたのは、杖を手に凍える冷気を纏った往人ゆきと、に『霊衣憑依ポゼッション』をしたリリムスだった。

 「そちらも無事だったか」

 剣を収めながらアイリスは氷像となった人形マルバスを見る。その表情は苦悶と絶望、そして怒りに満ち満ちていた。

 「アナタも人形と会ったのねぇ」

 「ということはそっちもか……」

 互いに出会った別々の人形マルバス。それはまだ他にも存在する可能性を残している。個々の戦闘力もさることながら、何よりも厄介なのが自分自身を本物のマルバスだと思い込んでいる点だった。倒すならばその矛盾を突けば問題はないが、その度に凄まじいまでの絶望を見せられるのは敵とは言え少々堪えるものがある。

 「面倒なモノを造ったわぁ」

 


 「なぁ、ここに本物のマルバスはいるのか? ニセモノだけ置いて本人は別って事は……」

 本物がアイリスを狙ってくる可能性を考慮してここまで来たが、彼女が対峙していたのも人形ニセモノだった。ならば本物はこの古代書院にはいないのではないかと往人は考えたのだが。

 「無いわねぇ」

 往人の疑問にリリムスはハッキリと断言する。

 「遠隔でどうにかできるほど魔導書は簡単な代物ではないわぁ。ふぅん、本人が出張ってこないことを考えると、塔の守りも人形に任せて完全に地下へと引きこもっているのかしらぁ」

 凍り付いた人形マルバスを観察しながら、リリムスは本物の状況を推察していく。

 「ねぇ、アナタが戦ったこの人形、どんな魔法を使ってきたかしらぁ?」

 「ん? 無機物にも高温を帯びさせる、激毒とかいう魔法だ」

 「ふんふん、ワタシたちが再生魔法ってことは……うん、なるほどねぇ」

 この場の状況とアイリスからの情報でリリムスは何度か頷いている。

 「なぁ、自分だけで納得しないでくれよ。このまま地下へは進めるのか?」

 何もわからない往人はさらに調べを進めようとするリリムスへと不満を口にする。状況を把握してくれるのはありがたいが、蚊帳の外ではイザというときに困ってしまう。

 「あ、ごめんなさぁい。ワタシ、すぐに周りが見えなくなっちゃうのぉ」

 「それで? あと何体人形は残っているんだ?」

 謝るリリムスにアイリスは先を促す。ある程度把握はできていても『魔族』の事はやはり専門家に聞く方が確かなのだろう。

 


 「残りは一体ねぇ。多分、コッチに向かっているはずよぉ」

 「えぇ……」

 いきなりとんでもない事を言ってくれた。向こうが動いているのならこっちもそれなりの準備をしなくてはならない。とにかく、こんなドロドロの溶岩を無理やり凍らせた場所では戦うことは難しい。

 往人は階段を下り、取りあえず安定した場所へと移動しようとした。

 「待って。すぐに動かない方がいいわぁ」

 だが、それをリリムスは制止する。アイリスもそれに反対することなくその場に留まっている。

 「なんでだよ? こんなところじゃ襲われたときに満足に戦えないぜ。それに早く行けば人形に会う前に魔導書のところまで……」

 「狙いはそれだろうな」

 「? どういうことだ?」

 アイリスの言葉にリリムスも頷いているが往人には理解できなかった。

 人形は自身が本物のマルバスだと認識しているはず。だったら無防備と思っている魔導書へ行かせまいと近づいてくるのではないのか。

 「本物は自分を魔導書の迎撃装置と、人形に認識させているはずよぉ。それもとびきり強力な」

 「あ」

 そう、結局のところ人形が戦うよりも本物が戦った方が圧倒的強いのだ。だが、『魔導書』の解析で本人は動けない。だったら、敵の方からこっちに来てもらえばいいのだ。

 「自立行動をする人形を複数体用意して、それに自身の魔法を貸し与えて防衛させる。魔力は人形をリンクさせてそこを循環させる形にすれば少ない魔力で運用ができるわぁ」

 「でもそれだと自分じゃ状況が掴めないんじゃ?」

 「ええ、だから最後の一体になったら自分のところまで追い立てるような仕組みを確立しているんだわぁ」

 上手いやり方だった。自分が何もしなくても勝手に人形が動き回って敵を排除してくれる。それで手に負えなければ自分のところまで誘いこんでくれて、その時だけ手を下せばいい。

 「やり手だな。反吐が出るよ」

 アイリスが吐き捨てるように呟く。

 「そういうヤツよぉ」

 リリムスも呆れるように言う。

 

 策は決まった。この場での迎撃、それが三人の選んだ選択だった。

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