37話 毒が護りし塔 The_Deadly sin part4
飛んでくる。
直前でそう判断できずに、ただの近接武器と思っていれば今頃、頭蓋骨を粉々にされていただろう。
毒鏃を放った杖の先には、再び新たな刃が装填されている。
アイリスは、文字通り矢継ぎ早に繰り出される毒鏃を躱していく。毒の鏃は杖から放たれ、空を切り、アイリスの顔を寸前で横切り、
べちゃ、と。
腐った食べ物を地面に落としたような不快な音と共に、鏃は壁へと突き刺さりその毒でもって融解させていく。
(……)
アイリスが何かを思うよりもそれは早く、
「な……っ!?」
ドロドロと、まるで砂山に水をかけたかのように毒鏃の当たっていない場所まで融かし始める。
強酸性の毒のようだが、違う。あの毒はそれだけではない。真っ赤に染まったそれは、超高温の溶岩も同様だった。
「何を驚くことがある?」
マルバスは再び毒を杖先につがえながら言った。
「我が輩は毒を究めし者。ならばこの程度のこと造作もない」
アイリスは言葉を失っていた。
毒に侵された生物は高熱を出すことがよくある。それは毒による効果ではなく、生物が有する免疫反応に由来するものがほとんどである。よって無機物に同じ毒を撃ち込んだところで高熱を帯びることなど本来はありえない。
だが、目の前の男は、『魔界』第五位のマルバスはそれをやってのけたのだ。
石で作られた壁を毒で侵し、融解するほどの超高温を発生させた。もちろん無機物である石なので免疫反応によるものではないだろうが。
それはもはや神業と呼んでも差支えはないだろう。それほどまでに大仰な魔法だった。
「我が毒の御業の前では命の有無など関係はない。防御も出来ない、逃走ももはや不可能。さぁ見せてみろ。貴様の有するエクスカリバー、聖なる神剣をも侵せるか探求の時だ」
杖先の鏃からは毒液が滴り、地面を沸騰させていく。
「……」
だが、アイリスは動けなかった。
愕然とした、信じられないといった表情のまま固まっていた。
「ふん、さしもの女神も我が毒の前に驚愕するのも無理からぬこと。だがこれで終わらせはしない。先の貴様の言葉を許すわけにはいかん。貴様の神剣を融かし、その高慢な態度を砕いてから殺す」
「……確かに驚いたさ」
ようやくといった感じにアイリス呟いた。
「そうまで無駄をして、貴様は何が目的なんだ?」
なに……? と第五位の動きか凍る。
「ん? 驚くことがあるか? 魔法とは『過程』だ。『結果』じゃない。風邪をひいただけで大がかりな儀式を行う奴などただの阿呆だ」
アイリスは呆れ果てたようにため息をつく。
「貴様はな、その阿呆だ。無機物へも超高温を帯びさせる? 馬鹿馬鹿しい。それなら直接炎の魔法をぶつければ済むだろう?」
「黙れ」
「貴様の毒の力が凄いのは理解したさ。だがな、こんなことで聖剣を抜くわけがなかろう? この体では魔力も節約せねばならん」
「……、黙れと言った!!」
嘲笑の声を掻き消すようにマルバスは吠える。同時に杖の先から毒の鏃が射出される。
毒の精製と射出が早すぎるため、傍目には杖の先から紫色の光線が放たれているようにも感じられた。秒間二十五発にも及ぶ毒の連射に、流石のアイリスも反応速度を上回られる。そのため、凄まじい毒を秘めた鏃はアイリスの肉体へと何発も突き刺さる。
彼女の懐から幾枚かの札が辺りに散らばった。




