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35話 毒が護りし塔 The_Deadly sin part2

 (さて、どうするか……?)

 監視役として残っていたのであろう数人の視線が背中に突き刺さる。

 このまま隠し通路の壁を開くことは簡単だが、またあの閃光の奔流を撃ち込まれるかもしれない。

 (数は……五人か)

 

 五人。


 なんとも絶妙な数だった。弱体化した今の状態では躱せるかは正直なところ五分か少し下。仮に喰らったとしてもあの威力なら即死はないが、後の戦いに相当響いてくる。ならば防御魔法は、と言っても同時に五発は持って二、三秒といったところか。とても通路へくぐれるようになるまで待ってはいられない。

 事前に気絶させようにも触れることはできないため、それも不可能。

 つまるところ、

 (分の悪い賭けか……)

 その択しかなかった。ここでやきもきしていて事態が好転するわけではない。ならば行動に移すしかないのだ。

 「ええい、ままよ!」

 アイリスは指先に込めた魔法で壁に施された秘匿の魔法を解いていく。リリムスがしたのとは違い、下から一気に跳び上がりながら壁を指でなぞっていく。摩擦で指が熱くなるが気にはしていられない。

 


 だが、結果から言えばその行動は杞憂に終わった。

 侵入者を拒む、あの淀んだ青色の光線は飛んではこなかった。正確には飛ばせなかったが正しいか。

 アイリスを睨みつけていた人々はアイリスが壁をなぞり始めたその瞬間から左手を翳し、迎撃態勢を取っていた。しかし、その左手から閃光が迸ることはなく、代わりにビクンッ! と一瞬体を大きく跳ねさせて倒れていった。

 「むっ!?」

 着地したアイリスが倒れた人々へと近づく。様子を見る限り、先ほどと同様に気を失っているだけのようだった。

 「攻撃自体はしようとしていたな……」

 行動と結果の乖離。自分たちが魔法を使えないと理解できないまま攻撃をした結果だろう。

 「ふむ、中で何かあったな」

 人間が使うには過ぎた魔法。それを可能にするには何らかの調整が必要となる。その何かがうまく機能しなくなったのだろうと結論付けたアイリスは大口を開ける通路へと足を踏み入れる。

 (あの二人がやったのならいいが)

 通路内での出来事を知ることのできないアイリスの脳内には一つの不安が渦巻いていた。


 

 それはこの塔を護る必要性がなくなった場合、つまりリリムスとその契約者である往人ゆきとの抹殺。敵側がそれを成していた場合、当然アイリスも敗北が確定する。

 魔族側が人的被害を考慮するとも考えられなかった。

 (……悪い方へと考えるのは私の悪い癖だな)

 右手に刻まれた紋章を指でなぞりながら、アイリスは去来する最悪の想像を頭の片隅に追いやる。

 カツン、カツンと石造りの階段を降りる音が狭苦しい壁に反響する。

 通路内は静かだった。それ故にどうしても意識を内側へと集中させてしまいそうになる。

 (いかんな……あの二人も強い、それを信じよう)

 ネバつくように頭から離れない想像を無理やりにでも忘れようとアイリスは頬を叩く。

 と、降りていく通路の少し先の壁がゆっくりとせり上がっていく。それは外側、つまり誰かが隠し通路を開けたことになるのだが――

 (なんだ? あの魔王はあそこが入り口の一つだとは……)

 そう、今アイリスは階段を降りている。そして、その道中に隠し扉があった事をリリムスは知らなかった。それはリリムスの情報よりも後に出来た入り口ということになる。

 (それを知っているのならっ!!)

 アイリスは迷わず剣を抜き、扉の向こうからやって来た人影へと斬りかかる。

 相手がなんであろうと、この状況ならばそれは『敵』。それも調整なしで秘匿魔法を解除出来る、人間以外の存在。

 「ふん、貴様の方だったか」


 アイリスの斬撃を毒々しい紫色の障壁で受け止めたのは、真っ黒な修道服に身を包んだ、青白い髪の男だった。

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