33話 太古の叡智は研鑽を望む The_Evil-Treatise part14
「ふぅ……」
リリムスとの『霊衣憑依』を解除した往人は、その全身を包む疲労感から座り込んでしまう。
「大丈夫ぅ、ダーリン?」
そこかしこに転がる瓦礫から肉体を作り出したリリムスは心配そうに往人の顔を覗き込む。そのリリムスの顔にも汗が浮かび、ほんのり顔色も上気している。
「結構長い時間一緒だったものねぇ。負担も大きくなっちゃったわぁ、ゴメンねぇ」
「別にリリムスのせいじゃないさ。しかし、よくあいつが人形だって気が付いたな」
往人には気が付けなった戦いの中での違和感。やはり『魔王』として、強者として戦ってきた年季の成せる業なのだろうか?
「んー? まぁこれでも魔王ですしぃ、魔族がどういった連中かはよく知っているつもりよぉ」
懐から何かを取り出し、口にしながら答えるリリムス。ちらと映ったそれはとても食べ物とは思えないものだった。
「普通、魔族は誰かの言葉を額面通りに受け取ることはないの、特に魔族同士だとねぇ。でもアレはワタシが言った『護るのをやめる』って言葉をそのまま受け取ったわぁ。あ、食べる?」
いらないよ……、と不気味に蠢くナニカを差し出すリリムスへ適当に返しながら往人はふと思った違和感を口にする。
「でもなんで本物のマルバスはそんなにお粗末な人形なんか造ったんだ? リリムスも名前を知ってるってことはそれなりの地位なんだろ?」
「ええ、アイツは序列第五位の高位魔族よぉ。あ、今は第四位かしらねぇ。ワタシが落ちたから」
冗談めかして言っているがとんでもないことを口にしている。
「待て、序列五位ってことは魔界で五番目に強いってことか!?」
『魔界』にどれだけの『魔族』がいるのかは分からない。でも、全部で五人なんてことはないはずだ。種族として成立している以上それなりの数はいるはず。その中の五番目。それがまだこの塔に待っていることを考えると往人は憂鬱な気分になってしまう。
「でもね、ダーリン。今のマルバスは焦ってもいるわぁ」
「焦っている?」
リリムスの言葉に往人は首をかしげる。『魔王』が相手とは言え、弱体化をしているし『霊衣憑依』をしたとしても全力ではまだ戦えない。そんな状態では焦る必要は無いように往人は思う。
「役割の違いねぇ。アイツは拠点防衛には向かないのよぉ」
そう言って、リリムスは床に残っていた粘液へと視線を向ける。
「アイツの毒の魔法、ダーリンも見たでしょう? 毒性が強すぎて守りに使うには調整が大変なのよぉ。本来のアイツの役割は拠点制圧のはずよぉ」
なるほど、確かに人形の使った毒の魔法は壁も床も溶かすほどの威力を持っていた。だが、逆に言えば守るはずの拠点である。この書院を自ら破壊していることでもあった。
「でもそれは人形の実力が低いからじゃあ……」
「魔導書をモノにするために魔力を使いすぎたのかしらねぇ」
半ば確信めいた言い方でリリムスは予測を立てる。
「行動を起こしたはいいけど、まさかここまで早くワタシたちが来るとは思ってなくて精度の低い人形とお粗末な秘法に頼らざるを得ないってところかしらぁ?」
「でもなんでそんな性急な行動をしたんだ? しかも苦手な拠点防衛までして」
魔界第五位、繰り上がって四位ならばこんな危険な事をするはずが無いようにも思う往人。少なくとも、元の世界での会社の幹部なんかは絶対にそんな危ない橋を渡ることはない。
「あの人形も言ってたでしょう? 魔界は決して一枚岩ではない、誰もが頂点を狙っているわぁ」
単純な話だった。マルバスも四位の座で終わるつもりは無い、それだけのことだったのだ。
「さてと……」
リリムスは残ったナニカをまとめて口へと放り込むと勢いよく噛み砕く。そのまま立ち上がり往人へと言った。
「早いところ、あの女神サマと合流しましょう?」
「ん? いいけど、どうしたんだ?」
リリムスの言動からは若干だが焦りのようなものが見て取れた。何か心配事でもあるように。
「人形を潰したから本人が動く可能性があるのよぉ。アッチを狙われたら流石にマズいわぁ」




