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27話 太古の叡智は研鑽を望む The_Evil-Treatise part8

 十三階の扉をくぐると流石に人の数もまばらだった。

 壁にかけられた案内板によると、この階はニユギアの歴史について記された本が所蔵されているようだった。

 「司書室はどこだ?」

 いくつかある扉を見回しながら往人ゆきとはお目当ての司書室を探す。

 「ええとぉ……あぁ、アッチねぇ」

 リリムスが指さす先には、他の部屋よりも少し離れたところにある部屋だった。やはりその部屋も、見ただけでは怪しい部分は見られない。こっそりと中を覗いてもおばさんの司書が一人、うつらうつらと船を漕いでいるのが見えるだけだった。

 「本当にここなのか?」

 あまりに普通すぎる光景に往人は階を間違えたんじゃないかと思ってしまう。

 「それは確かよぉ」

 そう言ってリリムスは司書室の扉の横、他の扉よりも少し間隔の開いた壁の前へと立つ。

 「ふんふん。人間の魔法で隠してあるだけねぇ。これなら簡単に破れるわぁ」

 壁をなぞりながら呟き、指先から淡い光を灯らせていく。

 すると、


 ――ガゴゴゴゴ!

 

 腹の底に響くような重苦しい音が響き渡り、今まで壁だったものがシャッターのように上へとせり上がっていく。そしてその後には奈落へと続いていくかのようにポッカリと暗闇が広がっていた。

 「おお……いかにも魔法の世界だ……」

 なんとも頭の悪い感想を呟きながら暗い穴を覗き込む往人。かなり狭く急な階段が下へと続いている。

 


 最初は壁がせり上がる音がうるさいせいかと思った。

 司書室から居眠りをしていた司書が出てきて、往人たちの方をジッと見つめていた。

 「ん? マズい……っ!!」

 アイリスが小さく叫んで往人とリリムスの腕を乱暴に引っ張る。

 すると今まで往人たちがいた場所に淀んだ青い光線が走っていく。アイリスが引っ張ってくれなければ、その奔流に飲まれ命はなかっただろう。

 司書は光のない無機質な瞳を往人たちから離さない。

 「なるほどぉ……ワナってことねぇ」

 「あ、え?」

 往人は驚きと混乱ですぐには言葉の意味が理解できなかった。

 「私たちは結界に閉じ込められている。外の人間が認識することはない」

 それはつまり、

 「隠し通路を見つけたら攻撃してくるようになっているのか」

 司書が左手を往人たちへ翳すと、再び光線が直進してくる。

 「うおぉっ!!」

 往人は光線を躱し、口を開けている暗闇へと転がり込む。

 「ダメッ! ダーリンッ!! くっ……十六階の広間の壁っ!!」

 リリムスが叫んで往人の後へと続いた。その時だった。


 ガァンン!!!


 凄まじい轟音と共にせり上がっていた壁が勢いよく下がってきた。それは死刑囚の首を跳ねるギロチンにも思えた。

 「うわっ……」

 危なかった。もう少し飛び込むのが遅ければ体が真っ二つになっていた。

 往人は視界が効かなくなった空間の中を恐る恐る手を動かしながら辺りを探る。

 

 ふにっ。

 

 不意に何か柔らかいものが往人の手に触れた。こんなものさっきまで階段にあっただろうか?

 「んん?」

 往人は正体を確かめようとその柔らかいものを近くへ引き寄せようとした。

 「あん……っ! ダーリン、意外と乱暴なのがスキなのねぇ。ムネを強く引っ張るなんてぇ」

 「……うわぁっ!? ゴ、ゴメンッ、リリムスだったのか!」

 掴んだものはリリムスの胸だったようだ。慌てて手を話したが、その手に残る感触を反芻するようについ指を動かしてしまう。

 「ダーリンの求めには答えてあげたいけどぉ、今はゴメンねぇ」

 「違う!」

 気恥ずかしさを誤魔化すのに大声を出すのは逆効果だと気が付かない往人。

 「はぁ……それよりもどうしよう、アイリスとはぐれちゃったぞ……」

 話を逸らした感もあるが、ピンチなのも事実。特に扉の外側へと残されてしまったアイリスが心配だった。

 「一応、次に近い隠し通路の場所を言ったけど聞いてたかしらねぇ」

 そこまで心配していないような声でリリムスは言う。

 「まさか、先へ進む気か?」

 

 「ええ、彼女なら大丈夫だものぉ」

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