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25話 太古の叡智は研鑽を望む The_Evil-Treatise part6

 「どうしたのぉ? ダーリン、顔が怖いわぁ」

 リリムスが往人ゆきとを心配するように聞いてくる。

 「だって、こんな事……」

 「ここはもう戦場に変わっているということだ」

 アイリスが当然、といった感じで言った。

 「魔族に先手を打たれた。これは奴らの挑発だろう」

 「……」

 往人は言葉を失う。

 ただの挑発のために何の関係もない人を、こんなあっさりと殺してしまう。

 いや、本当は分かっていた。先の町で無残に殺されてしまった人々を見たとき、『戦争』がどういったものなのかを。

 もうここは戦場なのだ。敵はこちらを殺すために策を練り、準備をしている。往人はそれを理解していなければならなかったのだ。

 「クソが……っ!!」

 意味はない、と分かっていても往人は握った拳をそばの柱へと叩きつける。だが、そんな事をしても周囲の人々は気が付かない様子で、険しい顔の往人の横を軽く談笑しながら通り過ぎていく。

 「どうしてだっ! どうして誰もあの人に気が付かない!」

 あの死体だけではない。往人たちもすでにその範疇に入ってしまっている。それはここで死ねば、誰にも気が付かれることなく朽ちていくことを意味している。

 「位相をずらしたのねぇ」

 「は?」

 意味の分からない単語に往人は怪訝な顔をする。

 「私たちは外からは見えない檻に入れられた、ということだ。こちらからは見ることも聞くことも出来る。だがそこの人々のように『外側』からはそれを認識できない。そんな魔法だ」

 アイリスの説明に、

 「まぁ、コッチ側でも触ることは無理みたいだけどねぇ」

 そう言ったリリムスがそばに立つ人へと触れようとして指をはじかれていた。


 

 「閉じ込められたようなものか……」

 今は時間帯的に人の出入りが多い。それはすなわち、出入口が事実上封鎖されていることを意味している。

 往人は、本人たちは何も知らないまま往人たちを閉じ込める鉄格子となっている人々を複雑な表情で見つめる。

 ここで待っていればいずれ出入口は空いてくるだろうが、そんなことをしていれば『魔導書』は『魔族』の手に落ちる。そうなればこの書院、それだけではないこの街全ての人が倒れ伏しているあの人のようになるかもしれないのだ。

 「進むしかないようだな」

 そう言ってアイリスは扉へと足を進める。リリムスも特に何を言うでもなくその後に続く。

 扉のそばに倒れている人を無視して。

 「待てよ! この人を放っておくのか?」

 往人は扉に手をかけたアイリスたちを呼び止める。

 「私たちに出来ることはない」

 アイリスは冷たく言い放つ。

 「ソレはもう死体よぉ。今は外にも出られないし、先へ進むしかないわぁ」

 リリムスもやはり冷酷に告げるのみだった。

 「なんで……っ!!」

 瞬間、掴みかかりそうになった手を往人は押さえる。

 この二人は人間のことなどどうでもいいのだろうか? 自身が『王』へと返り咲けるならばどれだけ犠牲が出ても構わないのだろうか?

 往人には理解できなかった。



 「悔しいのなら強くなることね」

 リリムスが言った。静かに、だが力強く。

 その声色は『魔王』としての余裕は感じられない。無関係な者を巻き込んだことへの後悔と自責を感じさせた。

 「弔いを、と考えているのなら今は先へ進み、そして勝つしかないんだ」

 その言葉はアイリス自身へと言い聞かせているようだった。

 何も感じていないわけがなかった。

 自分たちのせいで人間界へと戦いを持ち込んでしまった。多くの死者を出してしまった。

 そのことへの後悔が二人にないわけがなかったのだ。

 だからこそ先へ進む。一刻も早く戦いを終わらせるために。これ以上無関係な人が苦しまないように。

 それが二人の『決意』だった。

 そう、ここは『戦場』なのだから。強くあらねばならないのだ。

 「行こう」

 アイリスが言い、リリムスがそれに続く。


 「戦う理由が……一つ増えたわ」

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