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24話 太古の叡智は研鑽を望む The_Evil-Treatise part5

 重苦しい石造りの扉を抜けた先も、そこに広がっているのは大きく変わり映えはしない風景だった。

 日光を多く取り入れる為だろうか、全体的にガラス張りが中心のロビーになっている。ロビーは外からの印象とは違い、あまり大きくはなく高さも一階半ほどだろうか。

 とはいえ、ここは書院の『顔』となる場所なので入ってきた人々を迎えるために、そこそこ豪華な造りにはなっている。

 ロビーの先には扉が三つ並んでいる。その内の一つは他の扉よりも大きかった。荷物などを運び入れるためだろうか。

 今は時間帯が昼を少し回ったところで、他の人々もめいめいに食事の買い出しなどでロビーを行き来していた。

 そのおかげもあるのか、三人は特に注目も集めることもなかった。普通にしていれば、単にここへ本を読みに来た客だと思ってくれている。

 (一応、この服も役には立ってくれてるって事か……)

 往人ゆきとは自身の着ている服を軽く摘まみながら、小さくため息をつく。いい思い出の無い服ではあるが、目的の効果は果たしていた。

 


 取りあえずロビーを見回していても特におかしいところは見受けられない。

 出入りする人々も至って普通の者ばかりである。

 「あん?」

 だからこそ、往人の目にはポツンと一点だけ浮かび上がった違和感が飛び込んできた。

 三つある扉のうちの一つ、その一つが半開きになっていて何かが置かれていた。

 よく見るとそれは人形のようなものだった。その人形の足が扉に引っかかっているのだ。人形はメチャクチャに壊れてへたり込むように置かれている。まるで交通事故の再現に使われた人形のようである。

 その人形はとてもよくできていた。壊れていても人の形をしていると分かるし、キチンと服まで着させてもらっている。

 これも人形に持たせていたのかボロボロではあるが本が転がっている。

 だが、その人形はもはやなんの役目も果たせないであろう事は、素人目にも明らかだった。

 手足はありえない方向に曲がり、破けた腹部からは赤黒い液体まで零れている。

 錆のような、嫌な匂いに往人は眉をひそめる。

 そもそも、この人形はなんの為の物なのか?

 ここは本を閲覧するための場所である。あんな人形を配置しておく理由が特にない。

 そして、あの人形は何があってあそこまで壊れているのかが分からなかった。特に事故があった様子もないのに人形だけが壊れているのは不自然である。

 そして何よりも違和感だったのが。

 


 (誰も気にしていない……?)

 あれだけ異質なものが転がっているというのに、他の者達は一切騒いでいない。それも意識的に避けている、といったわけではなく初めから何も存在しないかのような自然さがあった。

 それとも、この世界ではアレも日常の風景の一部なのだろうか?

 「やられたわねぇ……」

 だが、そんな往人の不安はリリムスの一言に消された。

 「じゃあ……」

 往人はようやく人形から目を離す。リリムスがこう言うということはやはりアレは異常なのだ。

 そしてそれを自然に溶け込ませているこの風景も。

 「でも、なんであんな人形が……?」

 うん? とアイリスが眉を少しひそませながら言った。

 「あれは人形ではない。……死体だ」

 「え……?」

 往人は聞き間違えたかと思った。でなければ訳が分からない。

 「見たところは普通の人間ねぇ。純粋な腕力で殺された様子だけど、見てはいけないモノを見たってところかしらぁ」

 リリムスは死体の観察を続けながら、

 「チッ……思ったよりも手が早かったわぁ。急いで魔導書を確保しないとヤバそうねぇ……」

 

 忌々し気に呟くリリムスをよそに往人は気分が悪くなっていくのを肌で実感していた。

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