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23話 太古の叡智は研鑽を望む The_Evil-Treatise part4

 「しかし、なんと言うか」

 往人ゆきとは塔を見上げながら呟いた。

 歪な形をした塔、と表現してもいいかもしれない。いや、塔そのものの形状は普遍的な作りである。だが、首が痛くなるような高さの塔が合計で三本も建っていたのだ。そして三本の塔は、上から見て三角形の形を作るように建てられている。途中途中には他の塔へと渡るための通路が確認できた。

 あれでは安全基準満たしてないだろ、と往人は渡り廊下を見上げながら考える。

 別に法律に詳しいわけではないが、あんなマトモな支えも見られない物ではきっと無理だろうと思う。

 「まぁ、世界が違うけど」

 ここは往人がいたのとは違う世界、『ニユギア』。

 往人は口の中で呟いて、改めて三本の塔『古代書院』を見渡す。

 


 こうして外から眺める分には物騒な『魔導書』なんてものが存在しているようには見えない。

 そこに建っているのは古めかしいただの『塔』である。本を読みに来ているのか、時折出入りしていく人々を見ても特に不穏な雰囲気は感じられない。

 「取りあえずの目的地は二番塔の十三階……司書室の脇ねぇ。隠し通路があるわぁ」

 リリムスはのんびりした口調で呟く。見取り図も何も無しに言っているところを見るに、図面を完全に記憶しているのだろうか?

 「隠し通路?」

 「ええ、恐らく何らかの技術で普通の人間に気が付かれないようにはなっているけれどぉ、あの塔は壁と壁の間とかがスキマだらけなのよぉ」

 リリムスが書院を眺めながら、

 「……図面上でも八か所。多分増築、改築でもっと増えてるわぁ。で、一番近いのが今言った場所」

 「ふん、外からでは特段おかしなところは見受けられんがな」

 アイリスの何気ない呟きに、隣のリリムスは忌々しそうに呟いた。

 「怪しくはない……でしょうねぇ」

 「うん?」

 二人はリリムスの顔を見た。リリムスはしばし天へとそびえる塔を見上げていたが、やがてため息と共に首を振る。

 「なんでもないわぁ。ワタシだって怪しいところは見受けられないものぉ。そう、魔王たるワタシがこうやって見ていても、ねぇ」

 怪しくない、といっているのにどうも釈然とはしない表情のリリムス。

 それは、明らかに不調が見られるのに検査の数値に出ない病気を前にした際の医者のようだった。

 


 「……」

 リリムスもアイリスも『怪しいところはない』と言っているのみで『安全』だとは一言も言っていなかった。

 あの塔の中は分からないだけで死に繋がる危険が満載なのか、ただ『魔導書』を隠すためで安全なのか、それも分からない塔なのだ。

 とはいえ、そんな魔族の王すらも警戒するような危険な場所なら、なんの対策も無しに入ったりして平気なのだろうか?

 「大丈夫とは言えないわねぇ」

 リリムスはあっさりと答える。

 「だとしても進むしかないわぁ。ま、外から塔を破壊してもいいって言うなら話は別だけどぉ?」

 「おい!」

 冗談よぉ、とリリムスは言っているが半分以上本気だろう。騒ぎを気にしないなら、躊躇いなくこのバカでかい塔を壊しているはずだ。

 「しゃーなし、入るか……って、おいおい真正面から行くのか? もうちょっと何か裏から侵入とかないのか?」

 「ないわぁ。二人どっちかいい案、あるかしらぁ?」

 「くっ……ふざけるなよ! 本当にこのまま進む気か? 何があるかも分からないのに、普通何か策を練るものだろう!」

 アイリスの反論に往人も頷く。安っぽいB級映画だって侵入作戦なら、一つや二つ策があるのがお約束だ。

 「そうねぇ……ダーリンだけなら体に隠密の印でも刻み込めば何とか……」

 「ええ……それは流石に……」

 元の世界に帰った後に、訳の分からないタトゥーが入っているのは流石にゴメンだった。

 


 「でもねぇ……」

 リリムスは悩まし気に顔をしかめる。

 「どうやっても『魔力の流れ』自体はごまかせないのよぉ」

 「チッ……やはりな」

 「……? どういうこった?」

 「そうねぇ、魔法になじみがないダーリンに分かりやすくだと……」

 リリムスが一呼吸おいて、

 「水の中に黒い絵具を垂らすとどうなるかしらぁ?」

 「あん? そんなの黒い水になるさ」

 「そうねぇ。で、その水はあの塔に元から在る魔力。そして黒い絵具はワタシの魔力って事」

 「……っ、てことは二人は鈴をつけながら歩いているようなもんか?」

 もっと言えばGPSを持って歩いている、といったところか 

 「魔法を使わなければ、多少はマシだけどねぇ」

 「ふざけるな! 他人事みたいに。貴様の無策のツケをこっちは払う気などないぞ!」

 「なら、ここで待ってるぅ?」

 「……っ!」

 アイリスは言葉に詰まって、書院の入り口を眺めた。

 本来ならば、魔王の都合になど合わせるのは不本意である。それが何が起こるか分からない場所へ行くならなおさらである。

 けれども、

 『天族』と『魔族』、双方に追われている状況で『魔導書』まで敵に渡すわけにはいかなかった。

 「決まりね」

 魔王リリムスは一言だけ小さく呟いた。

 

 三人は無言で塔の入口へと手をかけた。

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