21話 太古の叡智は研鑽を望む The_Evil-Treatise part2
「どうするんだ?」
往人は、街を護る兵士を見ながらリリムスへと尋ねる。
チョーダの街。
古代書院があるということでかなりの歴史がある街らしく、周囲を大きな壁で囲まれ主要な入り口には二人一組で警備の兵隊が配置されていた。
最初は旅の者として街へと入ろうとしたのだが、どうやら先の町での出来事がもう伝わっているらしく、身分のチェックが強化されているようだった。
こっちは三人が三人とも人間界での身分など存在しない。
別に突破すること自体は簡単なのだが、無理にそんなことをすれば『魔導書』、とやらは手に入らなくなる。
それどころか騒ぎを目印に追手を差し向けられるかもしれない。故に、こうして入り口近くで思案をしているという訳だった。
「むぅ……どうしようかしらぁ」
テレビゲームなどとは違いまったく隙を見せることのない、兵士を眺めながら顎に手を当てながら考えるリリムス。
「おい、まさか考えなしにここへ来たんじゃないだろうな……!」
アイリスの声は静かだったが怒りが込められていた。
無理もない話である。どちらかといえば『天族』の方が本腰を入れてアイリスを探している。
なるべくなら迅速に行動をしていきたいのだ。それをこんなところで足止めを喰っているのだから文句の一つも言いたくなるだろう。
「大丈夫よぉ。うん、コレでいきましょうかぁ」
アイリスの小言を適当に聞き流したリリムスが、パァッと顔を明るくする。何か妙案を思いついたらしい。
「まずは……ダーリンとアナタ、霊衣憑依をしてもらおうかしらぁ?」
「おい! あの兵士と戦う気はないぞ!」
唐突な提案にアイリスは強い口調で反対をするが、それを聞いたリリムスの顔は呆れ顔だった。
「はぁ……誰が戦うなんて言ったのよぉ。だから脳筋なのよぉ」
何を! と怒るアイリスを宥めながら往人はリリムスへと聞く。
「まぁまぁ、それでいったいポゼッションをしてどうするんだ?」
「ふふん、身分が無いのに姿があるのが問題なのよぉ」
往人は怪訝な顔をする。リリムスの言っている事がイマイチ理解できなかった。
身分が無い事と姿がある事はなんの因果関係があるのだろうか?
「つまりぃ、身分が無いなら、姿も失くしちゃえばイイって訳よぉ」
「姿を失くす? 透明にでもなるのか?」
往人の言葉にリリムスは褒めるように指を軽く鳴らす。
「当ったりぃ! ワタシはこの体を一旦捨てる。そうすれば人間には魂のワタシは見えない。ソッチは透明化の魔法くらいアナタつかえるでしょう?」
リリムスの問いにアイリスも合点がいったように頷く。
「む、そういうことか。霊衣憑依でユキトもまとめて透明になると」
「やっと分かったぁ? ま、入り口でこれだけ厳しく調べていれば街の中では大丈夫なはずよぉ」
往人も覚えがあった。元の世界のニュース番組などで大会社への侵入などの事件を聞くと、なぜ? と思っていたがこういうことだったのだ。
入り口でのチェックを厳しくすればするほど、中にいる人物は『安全』を保証されているんだと勝手に思い込んでくれる。
それが顔を見たこともない者であっても、自分以外の誰かの顔見知りなのだろうと警戒をしなくなる。
出るときも然りである。
チェックを通った人物だからと、出るときはそこまで厳しくは見ない。
街の方を見てみると、やはり街から出ていく者へは特に何かをしている様子はなかった。
「だからぁ、姿を消して街へ入りさえすれば問題は無いって訳ぇ」
「よし、ここでのんびりしているのもあまりよくないし、それでいこう」
そう言って往人はアイリスの手を取る。しかし、
(ポゼッションするの恥ずかしいんだよなぁ……)
同じ紋章が刻まれている手を重ね合わせる都合上、どうしてもどちらかが背中から抱きしめる姿勢にならざるを得ない。それが往人にはどうにも気恥ずかしかった。
「ユキト?」
そんな事情など知る由もないアイリスが不思議そうに、背後で顔を赤くしている往人へと振り返る。彼女にとっては普通の事なのだろうか
「あ、いいやなんでもないよ。それじゃあ頼む」
二人は呪文と共に、再び一つとなる。今はアイリスが体の主導権を持っている。
「よし、姿を消すぞ」
言うが早いか、『往人の肉体』がスゥッと薄くなっていく。段々とフェードアウトするように完全にその姿が消えてしまった。
リリムスはとっくに土塊の体を捨て、魂となって浮いていた。
「……あいつと意思疎通が出来ないのが難点だな」
体を捨て、魂となったリリムスとは会話が出来ない。
ふよふよと漂うリリムスの魂の後に続いて、険しい顔で門の前に立つ兵士の横をアイリスたちも通り過ぎていった。




