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20話 太古の叡智は研鑽を望む The_Evil-Treatise

 とてもいい匂いが鼻孔をくすぐっていく。これは食べ物の匂い。

 そういえばほとんどまともに食事もとっていなかった。

 眠りの中だった往人ゆきとは、鼻をヒクヒクさせながら目を覚ます。

 そこは森の中に流れる川、その岸辺だった。

 焚き火を囲んでアイリスとリリムスが何かを食べている。眠りの中でも鼻をくすぐっていたのはそれらしい。

 ゆっくり立ち上がると、二人が気が付き振り返る。

 「目が覚めたか」

 「ご飯たべるでしょう?」

 正直、もう限界だった。こっちに来てからずっと戦い、戦いの連続で口にしたものは宿での軽食のみ。

 ようやくありつける食事に往人もいそいそと焚き火のそばへと近寄っていく。

 「うお、凄いな……」

 そこに広がっていたのは凄まじい量の食べ物だった。往人の顔ほどもある大きな肉の塊、元の世界では見たことがない種類の魚、それも当然のように巨大だった。

 キノコや木の実の類も傍らにうず高く積まれている。

 何より驚いたのは、それだけの食材があるのに、それに負けないくらいの食べ跡がすでに存在している事だった。

 「……どうした?」

 「お腹すいてるんでしょう? 遠慮しなくてもいいのよぉ?」

 あっけに取られている往人に二人はまた食事を再開する。

 凄まじい勢いで食べ進める二人。とてもその体に収まりそうもない喰いっぷりに往人は絶句する。

 「……凄い食べるね」

 このままではなくなると思い、往人も腰掛け食事を始める。焚き火で焼かれちょうど食べごろになった魚を手に取り、一口。

 


 「……美味い」

 とても美味しかった。思わず夢中になってがっついてしまう。

 「あちちっ!」

 「慌てて食べるからだ。もっと落ち着いて食べろ」

 アイリスが水を差し出し、往人はそれを口にして一息つく。だが、どう見ても二人の方が往人以上にがっついているようには見えるが。

 「でも……」

 再び一口食べて、不意に手を止める。

 「これだけの量をどうやって……?」

 二人で用意したには量が多すぎた。それとも、この森はそれだけ食べるものが豊富なのだろうか?

 「ん? なんてことないわぁ、魔法を使っただけよ」

 そう言って指を軽く鳴らすリリムス。すると不意に肉や魚が目の前に現れたではないか。

 「ま、いくら追われた身とは言え、食べ物用意もないわけではないよ」

 アイリスも同様に食べ物を出現させ食べ進めている。

 「なるほどね」

 改めて二人の魔法の凄さに圧倒されながら、残った魚を食べ進める。

 


 「ふぅ、ごちそうさま」

 魚二匹と、木の実を少々食べ往人は食事を終える。

 二人は未だ山のようにある食べ物を、まるで食べ始めかのような勢いで口へ運んでいる。

 「物凄い食べるね……」

 「そう? 割と普通だと思うけどぉ?」

 「ユキトこそ少ないんじゃないか? 食べられるときに食べておけよ」

 次々と消えていく食べ物を見て、乾いた笑いしか出てこない往人。

 「俺は結構。それよりもこれからどうする?」

 話題を変え、往人はこれからのことを二人に尋ねる。あの町を離れたはいいが行くアテなど往人にはない。『天族』、『魔族』どちらと戦うにせよ、道を示してもらわなければならなかった。

 「そうねぇ……あ、一つ行きたいところがあるわぁ」

 しばし考えていたリリムスが思いついたように提案する。

 「何処へ?」

 「チョーダの街にある古代書院へねぇ。ここからならそんなに遠くはないわぁ」

 往人には特に反対する理由はなかった。が、アイリスはどうやら違ったようだった。

 「なぜそこへ行く?」

 「そこに保管されている、とある書物が必要なのよぉ」

 その言葉に、アイリスの顔は険しくなる。

 「……魔導書か」

 

 魔導書。

 

 バルドルが襲撃してくる前に、往人へと見せていたあの書物。あれと同じような物をもう一冊求めているのか。

 「ええ、コッチの手持ちは一冊だけ。アッチに押さえられる前に確保したいのよぉ」

 別に本くらいなら持っている数で有利、不利は変わらないような気もするがそうではないのだろうか? 往人は小さくなった火を眺めながらそんなことを考える。

 「……そうだな。取りあえずはそこへ向かうか」

 向かうべき場所は決まったようだった。

 チョーダの街、そこが新たな目的地。

 アイリスリリムスは止めていた手を再び動かし始める。あれだけ食べてまだ食べるつもりらしかった。

 「どれだけ食べるんだよ……」

  

 往人は空いた口が塞がらなかった。

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