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199話 勇者の歩く先 Irregular_Machine part3

 唸るエンジン音が次第に小さくなっていき、やがて完全に停止する。

 中央都市からはずれ、人気のない路地裏に身を潜めた往人たち四人は追手を確認しながら、一息つく。

 「どうやらここまでは追ってきていない様ねぇ」

 「ああ、それにしてもスゴイものだな。その、バイク……だったか?」

 二人は、往人によってその調子を確かめられているバイクを改めて眺める。

 金属とは違う、軽く扱いやすそうな素材で造られたカウル。スベスベとした触り心地が気に入ったのかリリムスはしきりに撫でている。

 「ここは金属のようだな……熱っ!?」

 「あ、気を付けてくれよ。走ったばかりだとエンジンは高熱なんだ。迂闊に触ると火傷するぞ」

 バイクの下部に取り付けられたエンジン部に触れたアイリスを往人が諫める。

 調子を確かめてはいるが、本当はもう少し時間をおいてマシン全体が冷めてから作業したいところではあった。

 「ガス欠寸前なのになんであんなに走れたんだ……?」

 往人はパネルに表示されている給油指示を示すランプを見ながら呟く。目の前の愛車にはほとんどガソリンが残っていない。メインのタンクはもちろん、補助用のリザーブタンクも空に近い。

 だというのに、円形闘技場(コロッセオ)からここまでおおよそ三〇分は走っただろうか。

 もっと早くに動けなくなって然るべきなのだが。それに何より、ガソリンの残量が変わっていないのもおかしかった。

 おかげでリッターあたりの燃費を示す燃費系が異常な好数値を示している。

 「ねぇ、おにいちゃん。手紙がついてたよ」

 首をかしげる往人に、クリスがそっと小さな手紙を差し出す。黒い封筒にわざわざ封印までしてある時代錯誤的な手紙だった。

 「なるほど……」

 誰が書いたものなのかは明白だった。適当に封を破り中を見る。



 ――やぁやぁ、神代クン。

 ご機嫌は如何かな? キミが忘れていった剣、愛車と一緒に届けさせてもらうよ?

 せっかくキミを想って贈った物だ。もっと大切に扱ってもらいたいものだね。

 それと、そっちではガソリンも手に入らないだろうから、勝手ではあるけれど魔力で走るようにバイクを改造させてもらったよ。

 ああ、お礼なんていらないよ。愛する――

 


 そこまで読んで往人は手紙を握り潰した。

 「下らん……バカにして」

 呟いて、ふと思う。手紙には剣も一緒に届けるとあった。しかし肝心のそれは影も形も見当たらない。

 軽く点検した限りでも発見は出来なかった。

 「どういうことだ?」

 忘れたのだろうか、と一瞬考えたがそれは恐らくない。

 なんだかんだ言いながらも、ナルがミスをするなど往人には思えなかった。


 完璧。


 その言葉が最も似合う存在だと内心では思っているのだ。あまり認めたくはないが。

 「だったら、どこかにあるはずだが……」

 そこで往人の目に一つのものが映った。タンデムシートだった。

 往人のバイクはタンデムシートの下に、猫の額ほどの収納スペースがある。保険の証書などを入れてあるので新しく何かを入れるスペースはほぼ無いが。

 往人はおもむろにそのシートを外し、内部を探す。

 「……あった」

 ETCカードのケースの下に、アクセサリー状に形を変化させられて剣は置かれていた。

 往人は軽く舌打ちしながらそれを取り出す。

 「宝探しでもしているつもりかよ……」

 あれだけの『異能(ちから)』を持ちがながら、自身が楽しむことしか思考にないかのように振舞う少女。

 実際、助かったのは事実だがそれを認めたくはない往人だった。

 


 「先を急ごう。ここでこうしていると、いつ追手が来るか分からないし」

 「そうだな。私も十分に魔力は回復できた。お前はどうだ?」

 アイリスが自身の調子を確かめるように、広げた白翼を二、三度軽く羽ばたかせながらリリムスへと聞く。

 「誰に向かって聞いてんのぉ? ワタシは休む必要すらなかったわぁ」

 不敵に笑ったリリムスが、黒翼をわざとアイリスの白翼へとぶつけるようにはためかせる。

 「貴様……」

 「あぁら、ゴメンあそばせ? ワタクシの方が魔力の質が上、だから」

 からかうように笑うリリムスに、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるアイリス。

 今は、互いにクーデターを起こされ協力し合わなければならない身だが、その本質は決して相容れない存在同士。

 共に旅をしていても思うところはあるのだろう。

 「おいおい……諍いは勘弁してくれよ」

 「ふたりともなかよくしなきゃ嫌だよ?」

 言い争いを始めた二人に、往人は溜息をつきながらクリスを背負いバイクへと跨った。


 しばらくは騒がしく移動することになりそうだった。

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