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198話 勇者の歩く先 Irregular_Machine part2

 「急ぐぞ!」

 アイリスが走りながら言う。リリムスも何かを察したようにそれに従う。

 往人は背にクリスを背負いながら聞く。

 「なんだよ? 何かあるのか?」

 確かにこの『円形闘技場(コロッセオ)』は崩壊しているが、自分たちの頭上に瓦礫が降り注ぐ心配をしなければならない、というほどではない。歩いていても十分に出ることは可能なはずである。

 だが二人は周囲を気にしながら出来るだけ早く、この場所を去ろうとしている。

 「なあ、一体何を……」

 そう言いかけたが、それ以上往人が聞く必要はなかった。

 何者かが集団で歩く音が聞こえる。統率の取れた足音。訓練された者でなければ出せない音だった。

 「あれが答えだ」

 アイリスの言葉と共に現れた者たち。

 それは群青色の鎧に身を包んだ、騎士の集団だった。手に両刃の片手剣や槍を握りこちらを囲むように立っている。

 ざっと見積もっても百人近くはいるだろうか。

 「あれは……?」

 「メロウ帝国の正規騎士団ねぇ。団長のバルカンは死んだけど機能はしているわよねぇ、そりゃあ」

 リリムスのその言葉に、往人はある男の顔を思い出す。

 『魔導書』によって壊れ、狂い、死んでいった男の顔を。

 名はバルカン=レイバス。『メロウ帝国』の正規騎士団団長を務めていた男。

 そのバルカンは往人たちとの戦いで死んだが、それでも騎士団は残る。愚帝の最後の悪あがきの為に、こうして四人の前に立ちふさがっている。

 「全部殺すぅ?」

 「ダメだ。あれはただ命令されただけの連中だ。殺したくはない」

 自らの意思で敵意を向けたり、暴走したりでもはや意思もない者ならば迷いはしない。だが、あの騎士団はサンドロスの命で動かざるを得ない者たち。

 往人はそんな騎士団に刃を突き立てることは避けたかった。

 「仕方ない。気絶させて脱出するぞ」

 そう言って、アイリスが剣を抜こうと柄に手をかけた時だった。

 「あらぁ?」


 

 騎士団の後方が俄かに騒がしくなってきた。いわゆる(とき)の声、と呼ばれるようなものではない。

 その声には明らかな困惑、焦燥の色が浮かんでいた。そして、その中に人の声ではない音が混じる。それは低く唸るような音。それでいて生物の出す声ではない。

 その音に往人は聞き覚えがあった。


 ――ウォオオオンンン!!!!!!


 道を開けるように、騎士団たちが割れる。そして、その道の中に光が走る。自然の光ではない。

 人間によって造られた、人工の白い光。

 「あれは……!?」

 それは見覚えのあるフォルム。風を斬るダークブルーのカウル、低く唸りをあげるエンジン、青く焼き色の入ったマフラー。

 往人たちの目の前に現れたのはバイク。それも現実世界で往人が乗っていた物だった。

 「なんで、コイツがここに……それに誰も乗っていないのに」

 バイク、それに限らず乗り物というものは誰かが乗らなければ動くことはない。馬や牛などとは違い、生きていないから。

 しかしこのバイクは、そのシートに誰も乗せていないというのに走り往人たちの元へと来た。

 「魔法世界だからってそんなことあり得るのか……?」

 疑問には思うがそれを解決している時間はない。この場面でバイクがあるのなら僥倖である。

 すぐさま往人は愛機に跨り、アイリスたちへと言う。

 「二人とも飛んで逃げるんだ。俺はコレでクリスと行く」

 「えぇっ!? そんな訳の分からないモノ危ないわぁ」

 「まったく見たこともない。危険すぎるぞ」

 騎士団同様に、アイリスもリリムスもバイクを恐れているようだった。無理もない話である。この世界には一切存在しないものなのだから。

 「大丈夫だ。コレは俺のいた世界の乗り物だ。乗り方は分かる、先に飛んで案内をしてくれ」

 往人に促され、二人は渋々といった具合に翼を広げ宙へと舞う。

 往人はその間に適当なヒモで背中のクリスをしっかりと自身へと固定する。

 「痛いか?」

 「ううん。それよりも、ソレは本当に大丈夫なの?」

 「ああ!!」

 騎士団たちも、アイリスたちが空へと飛ぼうとしたのを見て動き出す。未知なる物体に恐れて逃がしたなどとは言えないのだろう。

 


 「道を開けてもらおうか!!」

 往人はアクセルを全開にする。エンジンが激しく唸り、ホイールがそれに合わせて回転、勢いよく走り出す。

 「どけ、どけぇ!!」

 慌てて避ける騎士団たちを縫って往人を乗せたバイクは駆け抜ける。先には低空を飛ぶアイリスたちがいる。

 見たこともない存在に、さしもの二人も驚いたように目を丸くしている。

 「すごぉい! そうやって使うものなのねぇ」

 「かなりの速度が出せるんだな。これなら一気に奴らも振り切れるぞ」


 あっけにとられる騎士団を尻目に、四人はあっという間に街の中へと消えていき見えなくなった。

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