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194話 二つの魔法 Gusion part2

 「ぬおおおお!?!?」

 降り注ぐ電撃。アクセルを全開にして逃げる。ブースター翼もプラスしての超高速。

 電撃すらも振り切る速度にを実際に見て、流石のグシオンも感嘆の声を漏らす。

 「ほう、なかなかの性能だな。異世界の力というやつも侮れないな」

 凶暴な笑みを覗かせ、グシオンは両腕を地へと付ける。

 「また人形かッ!!」

 「そう思うか?」

 現れたのは巨大なハンマー。身の丈なんて生易しいものではない。持ち手だけでも五メートルは優に超えようかというサイズ。打撃部分となれば極太の電信柱でも括りつけたのでは、とも思わせるほどだった。

 しかし、真に驚くべきはそこではなかった。

 「なッ!? 片手で……!」

 そう。それほどに巨大なハンマーをグシオンはなんと片手で持っていた。それも苦し紛れに何とか、というようなレベルではない。

 悠々と、子供が木の枝でも拾い上げたかのような気軽さに肩に担いで見せている。

 「こんなことで驚くなよ」

 振りかぶって横薙ぎにハンマーを振るう。その速度から生み出される衝撃波が、破壊の嵐となって荒れ狂う。

 どれだけの速度を出そうとも逃げることの叶わない範囲攻撃。

 そう。それが直線的な移動だけならば。

 


 「うぉおおおおお!!!」

 カウルからはためくブースター翼が、百五〇キロを超す車体を空へと持ち上げる。その下を大気が歪むほどの衝撃波が通過していく。

 横薙ぎに振るわれたハンマーは、正確無比に衝撃波を放ったため上方向へと逃げることで躱されてしまったのだ。

 「ふむ……」

 「喰らええええ!!!」

 ブースター翼が一層激しく噴出し、バイクそのものを質量弾へと変える。車体重量に速度をプラスした攻撃。

 輝くブースターが尾を引いてグシオンへと激突する。 

 大気が揺れ、轟音が周囲へと伝播する。ビリビリという振動がほんの僅かに残る電柱や街灯を振動させている。

 「ぬぅうううう!!!!」

 「はぁあああああ!!!!!」

 グシオンの鱗が生成されるそばから破壊され崩壊していく。

 「その長物もこう近づかれては使えまい!!」

 実際、グシオンはハンマーを使わずに手のひらから生成される鱗を盾代わりに、バイクの激突を防いでいる。

 「本当にそう見えるか?」 

 「あん? ……ッ!?」

 鱗の生成速度が爆発的に上昇する。それはバイクの激突を押し返すほどに強烈に増殖していく。

 そして、それを反比例するようにハンマーのサイズが小さくなっていく。

 「これで、振るいやすくなったな」

 現実で言うところのスレッジハンマー。

 それくらいのサイズにまで縮小したそれをグシオンは振るう。自身が生成した鱗によって打撃部分が往人まで届かなくてもお構いなしに。

 ハンマーを叩きつけられた鱗がバリバリと音を立ててひび割れていく。その衝撃を往人へと届かせようというつもりか。

 「その程度ッ!!」

 だが、その衝撃が届くよりも早く、往人はその場を離脱する。ブースター翼はそれを可能に出来る。

 


 「なんだとッ!?」

 「この程度で十分だったな」

 狙いは違った。ハンマーによる打撃は云わば下準備。真の狙いは崩壊していく鱗、その隙間から放たれたいくつもの火球だった。

 咄嗟にブースター翼を広げ盾代わりにしなければ、直撃してバイクの大爆発と共にあの世へといっていただろう。

 「くッ……」

 だが、咄嗟の防御のせいでバランスを崩しバイクごと派手に地へと叩きつけられてしまう。

 下敷きにならなかったのは単なる偶然。運が良かっただけだった。

 「それでその鉄の塊も使えなくなったな」

 カウルはほとんどが割れ、ハンドルもひしゃげてしまったバイク。

 「くそ……ローンがまだ残っているのに」

 こんなことなら車両保険も入っておくべきだったと後悔する往人。しかし、『魔族』との戦闘による破損をなんと言えば信じてもらえるかは不明である。

 「チッ……なんにしても、ヤツの魔法のカラクリを解かなくちゃ勝ち目がないぞ」

 「驚いたな。まだ勝つ気でいるとはな」

 わざとらしく肩をすくめるグシオンに、往人は火球を放つ。当然そんなものは鱗の盾に簡単に防がれる。

 「はあッ!!」

 しかしそれはブラフ。往人は一気にブースター翼で距離を詰め、グシオンの胴体へと触れる。

 「何を……ッ!!」

 「はああああ!!!!!」

 往人の体が一気に後方へと押し戻される。それは手のひらから放った超高出力のブースター翼によるもの。

 魔法の切り替えを行っていては間に合わない。

 ならば一種類の魔法で対応する。往人は移動に使ったブースター翼を、そのままグシオンにも放ったのだ。

 「ぬぉおおお!?!?」

 流石のグシオンも反応しきれずに、その身を魔力の噴出に晒される。

 だがそれでも鱗を生成して何とか防ぎきる。細く白煙を上げ、息も絶え絶えながらも未だその瞳には凶暴な光が灯っていた。

 「ガキがッ! 殺すッ!!」

 吼えるグシオンが、腕へと纏わせた鱗を爪へと変じさせ襲い掛かる。ゾワゾワと蠢き、触れただけで肉を斬り裂くその爪が往人を狙う。

 「はあッ!!」

 往人はそれを『レーヴァテイン』を振るい防ぐ。

 しかし、そこでグシオンは牙を覗かせ笑った。

 「甘いんだよ、ガキがッ!!」

 爪から放たれたのは数千万ボルトもの高圧電流。至近距離からのそれは往人の体を貫き内部から焼き尽くす――

 「やはり、電撃か」

 電撃が往人へと伸びるその直前、『レーヴァテイン』から吹きあがった炎がそれを阻む。


 そして、その炎の隙間から何かを確信したように、往人はニヤリと笑った。

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