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189話 交錯する想い Distorted_Desire part3

 あまりにも警察署が普通過ぎたので気が付かなかった。

 警察にはパトロールの仕事があるのでいないこともあるだろう。だとしてもそれなりに連絡というものはしなければならないはず。

 だが葛西はもう何時間も連絡をしていないし、仮に目覚めていて連絡をしていたならばもっと大きな騒ぎになっているだろう。

 しかしそんな様子はまったくない。朝、往人が見たとおりの景色だった。

 「なぜだ? 警察ってのは数時間席を外していても大丈夫な組織なのか?」

 生活安全課の仕事がどういった内容なのかは知らない。だが、昼をまたいで音沙汰なしで済むような仕事は無いような気もする。もしくは、葛西に一切の人望がないか。

 「それはあまりにも悲惨すぎるな……」

 往人はその場を離れ、工場跡地へとバイクを走らせる。

 警察署の中を見たいとも考えたが、学生が昼間からそんなところをうろついていては流石に目立つ。

 多少無理やりにでも進んで行くならば、明確な証拠が欲しいと考える。

 その為にも、もう一度葛西を調べなければならない。

 「まだ目を覚ましていなければいいけど」

 バイクで走れば十分ほどで跡地までは来ることができる。

 殺風景な跡地に、葛西はまだ気を失ったまま横たわっていた。人気がないため騒ぎにもなっておらず往人には助かった。

 「さてと、男のそれもおっさんの体をいじくる趣味はないんだがね……」

 再び葛西の肉体を調べる往人。首元に針を撃ち込まれた痕跡以外に何かないか。

 出来れば衣服も脱がせて調べたいと思うが、流石にそれは憚られる。いくら人気がないからと言って、葛西が目を覚ましでもしたら一大事である。

 だが、そんな心配はすぐにしなくても良くなった。

 


 「……そっちから来てくれるとは思わなかったよ」

 「ヒヒヒ。よく分かったなァ」

 往人の背後から迫る男が下品に笑う。露骨に殺気を駄々洩れにして、足音も隠す気配がない。

 「それで? 貴様が黒幕ってことでいいのか?」

二メートルはあろうかという長身と、針金のように細い体。背にはコウモリのように薄い膜の張った二枚の羽根が生え、細長い尻尾は腰に巻きつくように生えている。

 「いちいち聞かなきゃ気が済まない性格かァ? 殺し合いをする相手となにお喋りしようとしてんだ……ッ!?」

 言い終わらぬうちに、往人の拳が男の顔面を捉える。

 「そうだったな。オレとしたことがうっかりしていたよ」

 いかにも『魔族』といった風体の男は、ゆっくりと体を起こすと怒りに満ちた瞳を向ける。

 「やってくれるなァ。イイ刺激だぜェ……だが、ここでテメェが死ぬ事実は変わんねェんだよ!!」

 男は虚空から、三又に分かれた細身の槍を取り出して往人へと突き出す。

 「随分とステレオタイプなヤツだな。とてもリリムスのような高位の魔族とは思えないがッ!!」

 往人は手のひらから火球を発生させ、炎の拳を作り出す。両の手に纏わせた炎で迫る三又槍を払うと、そのままがら空きになったボディを連続で殴りつける。

 「はああああ!!!!」

 灼熱の拳が魔族の鱗に覆われゴツゴツとした肌を焼き、往人の鼻に不快な臭いを運んでくる。

 「ぬおおお!! 舐めるなよ!」

 魔族も肉体を焼かれる痛みを堪え、往人の腕を掴み取る。その痩躯のどこにそんな力があるのかと思うほどに、抵抗する間もなく引き剥がされると地へと叩きつけられる。

 「がッ!?」

 ミシミシと背骨が嫌な音を立てる。しかしその痛みに悶えている時間はない。

 すぐに迫る槍から、身を転がして躱すと今度は往人が骨と皮だけの足を掴んで転ばせる。

 身体強化により見た目以上の膂力を得た往人にそれを実行することは容易い。

 「ぐあッ!?」

 引きずり倒された魔族は間抜けな声を上げてバランスを崩す。そこに往人は逆立ちをする要領で、向こうから迫ってきてくれる顔面へ向けて両足で蹴り上げる。

 額から伸びる堅牢そうな角が欠ける。

 口元に血を滲ませた魔族が羽根を広げて飛び上がる。

 「ゴミが!! 所詮は人間、魔族サマに叶うと思うなッ!!」

 槍の先から電撃を放つ。凄まじい高圧電流が鋭く地面を走る。数千万ボルトにもなろうかという電撃は拳を握る往人へと殺到していく。

 触れただけで人体など黒焦げを通り越して焼失したとしてもおかしくはない。

 「……なんだと」

 だが、往人は違った。

 迫る電撃。そのすべてを握り、そして潰して霧散させる。

 「悪いな。これが人間なんだよ」

 黒く禍々しい『気』が往人の手から迸る。それはしだいに荷電していき、あっという間に数億ボルトにまで達した。

 ズドン!! と放たれた雷撃は魔族に当たるのと遅れて爆発音を発生させた。

 魔族の体内を焼き尽くした雷撃はその肉体から黒煙を上げさせ、一瞬で意識を刈り取った。

 

 「ま、人間としてカウントするとちょっとズルいかもな」

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