188話 交錯する想い Distorted_Desire part2
「クソッ……落ち着け。魔族を倒せば佳奈は帰ってくるんだ、まずはそこからだ」
佳奈を心配する気持ちとナルへの怒りで頭の中がメチャクチャだった。
それでもやるべきことを、と往人はガシガシと乱暴に髪をかきながら改めて葛西の肉体、そこに残った魔力の痕跡を調べる。
首筋に何かを撃ち込まれたような形で残る魔力痕。よく見ると、痕だけでなく実物も残っている。
「これは……針か」
ほとんど無色で細いため気が付きにくいが、鋭い針が刺さっている。
その針に、僅かではあるが魔力を感じる。その魔力で葛西を操っていたのか。
「この魔力を追跡できればいいんだが……」
往人の技量では魔力を感知するので精一杯で、とても残った魔力から追跡など出来ようもない。
回復魔法のこともそうだが、もっとちゃんとリリムスから魔法を習っておくのだったと後悔する。
「仕方ない……どこまで出来るか分からんが、足で探すか」
そう言って、往人は背からブースター翼を展開して一旦自宅へと戻ることにした。
「あら? 往人、戻ったの?」
自室からバイクの鍵を持ちだそうとしたところを母親に見つかってしまう。
足とは言っても、流石にこの広い街の中から探すには徒歩では難しい。かと言ってずっとブースター翼を使い続けていては、肝心な場面で魔力不足に陥る可能性もある。
そこで役立つのがバイクなのだが――
「バイクの鍵なんてどうするの? それに学校は?」
「あー、いや……その……」
持ち出すまでが一苦労なのが欠点だった。
今日は母親のパートも休み。目を掻い潜って鍵を持ち出すのはほぼ不可能だった。
「そう! 警察の方でね、バイクに犯人の手掛かりが残っているかもだからちょっと見たいって言うんだよ。だから一旦取りに戻っただけ」
「ふぅん。じゃあまだ終わらないの? 大変ねぇ。佳奈ちゃんもまだ警察?」
「あ、ああ。通報者だからまだ話しを聞かれているよ。終わったら連絡するから」
往人の言葉に、特段怪しむ様子もなく母親は再び外へと出ていく息子を見送る。
その様子に、往人は自らの母親ながら若干心配になる。
(おっとりしていると思っていたけど、もう少し警戒感とかあってもいいんじゃないか?)
息子の言うことだからって簡単に信用しすぎなのでは、と考えてしまう。
あのままでは振り込め詐欺に引っかかる危険性もありそうだった。
「まあ、そのおっとりさのおかげで今は助かったんだが」
バイクに鍵を差し込み電源を入れる。エンジンをかけながら往人は思う。
「使える時間はそう多くはないか……」
往人たちは警察で話しを聞かれていることになっている。どれだけ遅くとも夜になることは、学生という身分を考えるとあり得ない。
現在の時間は午後の一時を少し回ったところ。怪しまれない時刻を考えると、使える時間はおおよそ三時間から四時間と言ったぐらいだろうか。
「短いな……」
この街を一回りするだけならば、二時間もあればお釣りが来るだろう。しかし、状況が違う。
どこにいるかも分からない、姿かたちも不明の魔族を僅かに残った魔力で探し当てなければならないとなると、相当に短い時間となる。
その上、戦闘にもリソースを割かなければならないとなると探索に使える時間はもっと減る。
「悩む時間ももったいないか。とっとと走るだけだ」
往人はアクセルを捻り走り出した。
なんとしても魔族を倒すために、そして何よりも大切な幼なじみを助けるために。
「まずは定番の所から……」
往人は警察署へとバイクを向かわせ、魔力を探る。
葛西の肉体から抜き取った針。その状態でもまだ魔力は感じることができる。
それと同じ魔力が存在しないか感知能力を最大にして調べるが、この場所には魔力の主はいないようだった。
「ここが違うとなると葛西はどこで操られたんだ……?」
母親は往人たちが警察へ行ったと認識していた。
それは往人たちは最初はここへ来ていたことになる。そうでなければ来るはずだった者が来ていないと連絡が行くはずだ。
ならばここに確かに二人はいたことになる。だというのに魔力を感じることはない。
「うーん……アテが外れたな」
警察署の姿を維持するならば、ここに潜んでいるかもしれないと思ったがそう甘くはないらしい。
「……別の場所へ行くか」
往人はそう言って、バイクを走らせようとした。
――ギキイィ!!!
だが思いとどまり思い切りブレーキをかける。後ろについていた車が迷惑そうにクラクションを鳴らし追い抜いていく。
「……なんで葛西がいなくなったはずなのに騒ぎになっていないんだ?」