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187話 交錯する想い Distorted_Desire

 「やあやあ、神代クン。頑張っているようで何よりだよ」

 気絶し動かなくなった葛西の様子を伺っていると、往人の背後から声かかった。

 軽薄で緊張感がなく、それでいてどこか澄んだ美しい声。

 「やっとお出ましか」

 うんざりした表情で往人は声の主へと視線を向ける。

 そこに立っていたのはナルだった。

 「勝手にどこかへ消えやがって……」

 昨日の夕方に姿を見せ、佳奈が現れたら勝手にいなくなっていた。あまりにも身勝手な少女の行動に、往人もほとほと呆れ果てていた。

 「心配してくれたのかな?」

 「そう思うんなら、一度その脳ミソ医者に見てもらった方がいいだろうな」

 彼女の軽口を適当に流して、往人は葛西を操っていた魔族の情報を得ようと彼の肉体を調べ始める。

 「……流石に意識のない人間を操ったりは出来ないよな……?」

 「そんなつまらないことよりも、ボクとおしゃべりでもしようよー」

 「……やはり魔力が流れていた痕跡があるな」

 「わお。華麗にスルーとは傷ついちゃうなー、ボク」

 それでも往人はナルを無視して葛西の肉体、その首筋に何かを撃ち込まれたような痕を見つけた。

 


 「むー、冷たいんだから」

 無反応な往人に飽きたのか興味の対象は彼から、その横で少し不安そうにしている佳奈へと移った。

 「ねえ、キミ誰?」

 「ひゃあ!?」

 背後から声をかけられ、その上撫でるように顔へと触れられたせいで思わず悲鳴を上げてしまう佳奈。

 当然、往人は怒りのこもった瞳でナルを睨みつけながら叫ぶ。

 「佳奈に、おかしなことをするなっ!!」

 「アハハ、脅かすつもりはなかったんだよ。ちょっとおしゃべりしたかっただけさ」

 「ふざけるな! 佳奈、こいつは無視しろ。会話をしてもロクなことにならないからな」

 だが、生来のお人好しでもある佳奈。寂しそうに俯くナルを見て、放っておけなくなってしまう。

 「あの、落ち込まないで。往人は口は悪いけど、本当は優しい人だから」

 「佳奈……」

 「少しならいいでしょ? それにこんな可愛らしい子にひどいこと言うもんじゃないわ」

 そう言って往人を窘める佳奈を、ナルは愉快そうに眺める。

 「ククク、この子には神代クンも形無しなんだねェ。キミ、名前は?」

 「私は佳奈。三島佳奈よ。あなたは?」

 「ボクかい? ボクは、そうだね……n//$#a*@%t?\だよ」

 それは囁くように静かで、それでいて心を蝕む叫びであり、魂を揺さぶる呪いでもあった。

 佳奈の体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。まるで糸の切れた人形のように。

 「っ!? 佳奈!!」

 慌てて往人が、その体を抱きとめる。

 呼吸はしている。しかし、今まで意識があったとは思えないほど体が冷たかった。

 支えている今も、指先がかじかんでくる。

 「貴様……!! 佳奈に何をしたッ!!」

 「名前を聞いたからね。それに答えただけだよ」

 クスクスと笑うナルへと、往人は漆黒の『気』を纏った炎を放つ。

 熱線と変じた炎は、躱すナルに向けて進行方向を変える。

 「へぇ……」

 何度躱そうと、その度に向きを変えて迫る熱線。

 それは往人の視線によって、敵へ命中するまで追い続ける追尾式レーザー。

 「喰らえッ!!」

 躱すことをやめ、ナルは迫るレーザーへと軽く視線を向ける。

 「まあまあだね。十五点ってところかな?」

 そう評して、ナルの瞳が鈍い銀色の輝きを放つ。

 それだけで、往人の『秘法』はあっけなく『拒絶』されてしまった。

 


 「アハハ。まだまだ、キミがボクに勝てるはずがないだろう? その子は所謂、囚われのお姫様さ」

 「何言ってんだ、テメェ……?」

 いきなり訳の分からないことを(のたま)い始めたナルに、往人は困惑の表情を見せる。

 「そこで寝ているハゲを使っていたヤツを倒すんでしょ? モチベアップを少々ね」

 「そんな必要ないッ!! 佳奈をさっさと元に戻せッ!!」

 『気』を使った身体能力強化。だが、その強化率は往人の制御できる限界を遥かに超えてしまっていた。

 『強化魔法』は、強化率に上限が存在しない。

 故に、魔力を込めれば理論上無限に強化できる。しかし、自身が制御できる以上に強化してしまうと、逆に自身の体を傷つける結果になってしまう。

 強化され、向上した身体能力に肉体が追いつかないのだ。

 今の往人はまさしくそれだった。

 『魔導書の気』。それにより爆発的な身体能力の上昇と、それに伴う制御不能の反動。

 そのダメージは、元々ケガをしていた足にきた。

 「しまッ……!?」

 千切れたんじゃないか、と錯覚するほどに強烈な痛み。

 こうなっては戦闘どころではない。痛みに悶え、無様に地を転がる。

 「無理するからだよ。ま、特別チャンスさ。カナちゃんを助けたかったら、しっかりと魔族を殺すことだね」

 そう言って、ナルは往人の足のケガを治した。

 回復魔法とは違う、独特の感覚。

 輝く瞳から、それが『拒絶』によるものだと理解する。

 「この期に及んでまだゲームのつもりか……!!」


 佳奈を連れ、そのまま霧のように消えたナルへ往人は怒りを隠そうとしなかった。

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