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185話 司法の監獄 Justice_IN_The_Malice part6

 最後の唐揚げを名残惜しむように口に運ぶ往人。

 運良く、弁当を食べている間には何も起こらなかった。

 またこの監獄から出るための手段を探さなくてはならない。

 (剣を置いてくるんじゃなかった……)

 自室の押し入れに隠してある剣を思い、若干の後悔を覚える往人。まだ往人は虚空から物を取り出す魔法は覚えていない。

 アイリスもリリムスも慣れれば簡単だと言っていたが、往人にはその感覚がまだ掴めていなかった。

 (一応武器がないわけじゃないんだが……これはなぁ)

 往人は首からチェーンで繋がれた剣の首飾りを握る。その形はかの『聖剣レーヴァテイン』と同じだった。

 そう。ウートガルザとの一件の後、『魔王』であるリリムスはおろかアイリスですら持つことのできなかった『聖剣』をアクセサリー状に封印して往人が持つことにしていた。

 封印と言ってもそこまで大仰なものではなく、ごく簡単に解除できる代物ではあるが。

 往人にも封印を解くことはできる。しかし、アイリスの手を灼かれる、あの光景を見てしまうとなかなか使用に踏み切るのには勇気がいった。

 『魔王』とのポゼッションが出来れば抜くことも出来るのだが。

 「ふっ、それならここから出るのにコレを使わなくてもいいか……」

 「え? どうかした?」

 「ああ、いや。なんでもないよ。これからどうしようかってさ」

 ポツリと漏らした愚痴を適当にごまかしながら、往人はソファーから立ち上がる。

 足の痛みも若干ではあるが引いている。



 「仕方ないか……」

 結局、あれからしばらく調べてみたが有力な手掛かりは発見できなかった。

 往人は首から下げたアクセサリー、『レーヴァテイン』を握り入り口の自動ドア前に立つ。

 「何をするの? また怪我したらいやよ、私」

 「大丈夫さ。無茶なことはしない」

 そう言って、往人は手の中の『聖剣』へと魔力を込める。

 たちまち、剣状のアクセサリーは元の大きさを取り戻し、往人の右手にその柄を握らせる。

 ゆっくりと、まるで危険物でも扱うかのように鞘から抜かれたのは片刃の長剣。柄頭には真紅の宝石が輝く『天界の至宝』。

 「まずは問題ないか……」

 アイリスもウートガルザも鞘から抜かれた『レーヴァテイン』に触れるだけでその身を灼かれていた。

 だが往人はその状態でもなんともなかった。ただ、他とは違う確かな『熱』を感じてはいたが。

 「え? なにその剣……?」

 「これも力の一端さ。これならもしかしたらって。危ないかもしれないから、ちょっと下がっててくれ」

 全くの未知数な『聖剣』。どうなるかもわからない。佳奈に距離を取らせると、往人は『レーヴァテイン』へと魔力を注ぎ込む。

 「……っ!? これは!」

 感じる。

 剣に流れていく魔力。それが『熱』となっていくのを。

 それは見ることは出来ないが、剣へと纏っていき炎となる。ゆらゆらと、鈍く輝く刀身の周りには陽炎が発生している。

 

 その立ち昇る陽炎が見せた。


 それは特定のフィルターを差し挟んだ場合のみ確認することが出来る現象。例えば赤外線のような。

 そこにあるのに見ることが出来なくなっていた。いや、見えなくさせられていたと言った方がこの場合は正確だろう。

 「どういうこと……」

 広がる陽炎が佳奈にも、この場の真実を映し出す。

 ここにあるものを。いや、正しくは何もないということを暴いた。

 「幻……?」

 そう。往人たちが今までいた警察署は影も形も無くなり、目の前には荒涼な地が広がっていた。

 「ここ、街はずれの工場跡地……?」

 佳奈の言葉に、往人もこの茶色の地を思い出していた。

 名前は忘れたが、どこかの会社の工場。不正だか何かで倒産し、空き地になっていたのを再開発だとかで以前に話題になっていた。

 しかしその空き地と、警察署では数キロは距離がある。

 「どこから惑わされていたんだ……?」

 警察署へと行っているつもりがここへ来ていたのか。それとも最初は警察署にいて、どこかのタイミングでここへ連れてこられたのか。

 「佳奈、俺の近くにいろ」

 「え? う、うん」

 往人は佳奈を守るようにしながら周囲を伺う。

 こういった場合は敵に注意しなければならない。身を隠すような遮蔽物はないが、逆にこちらも安全を確保することができない。

 多少なりとも戦える往人はまだしも、佳奈は魔法も何も使うことはできない。

 「っ!? 往人、危ない!!」

 佳奈が叫んで往人を突き飛ばし、自分もその勢いのまま伏せる。ほとんど倒れに行くような勢いだった。

 その直後、その今まで二人が立っていた場所にギラつく刃物が通過していった。

 どこにでも売っているような、ありふれた物。しかし、悪意を持って振るえば簡単に凶器になり得る、カッターナイフが。

 「葛西っ!!」

 

 狂気を孕んだ瞳を血走らせこちらを見つめていたのは、あの中年警察官の葛西だった。

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