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183話 司法の監獄 Justice_IN_The_Malice part4

 「……あ。往人」

 「目が覚めたか?」

 背に負ぶわれていた佳奈が目を覚ます。辺りを見回すがバケモノはいない。

 「さっきの変な生き物は……?」

 「え? ああ、ひとしきり暴れたら死んだよ」

 「嘘」

 佳奈には分かる。往人が嘘をついていると。

 彼は嘘を吐くとき、いつも目が泳ぐ。背負われていて、あまり見えなくてもよく分かる。

 「……往人が何を隠しているのかは知らない。きっとこの状況もあなたに関係しているんだと思う。でもね。それでも私はあなたの幼なじみよ。何があったとしてもそれは変わらないわ」

 「佳奈……」

 もういいわ、と佳奈が往人の背から降りる。幼なじみだから分かる。

 往人が佳奈に嘘をつくときは決まって佳奈を守ろうとするときである。

 トラブルに巻き込みたくない、心配させたくない。そう言った時は必ず嘘をついて安心させようとするのだ。

 「佳奈……」

 「これでも話す気にはならない?」

 「……その内話すよ。と言いたいけど、どうやら見てもらう方が早そうだ」

 


 通路の奥から歩く音が聞こえる。

 現れたのは先ほどと同じバケモノ。異様に肥大化した上半身とそれに不釣り合いな下半身。それに皮膚がなく剥き出しの筋繊維。

 それがこちらを認識すると口から唾液を飛ばしながら吼えてくる。


 ――ゴゥアアアアア!!!!


 「いちいちうるさい奴だよ!!」

 「駄目よ。危ないわ!!」

 佳奈が止めるが、往人はそれを聞かずに駆ける。

 身体強化を施し、振るわれる巨腕の一撃を紙一重で躱す。ヒュオ!! という風を裂く音が聞こえてくる。

 「そんな一撃!!」

 巨腕を掴む。ミシミシと音が聞こえそうなほどに込められる力。

 バケモノの顔が苦痛に歪む。

 そのまま往人はバケモノを力任せに振り回し壁へと叩きつける。往人の腕力と、バケモノ自身の自重で壁は大きくへこみヒビも入る。

 それだけの衝撃。頭から直撃したバケモノはそのまま意識を失う。

 「生きてられると不都合なんでね」

 横たわる巨体の上に乗った往人が手のひらをバケモノ顔へと広げる。

 一瞬でチャージされた魔力は雷の刃となってバケモノの脳ミソを貫く。

 だちゅ、という不快な音を短く響かせバケモノは絶命する。

 


 「往人……」

 今度は意識を失わなかった佳奈はその一部始終を見た。いや、見てしまったと言うべきか。

 「だから言いたくなかったんだよ。これじゃあどっちがバケモノなんだってな……」

 自嘲気味に呟く往人。

 異様な姿をして破壊をばら撒くバケモノ。ならばそれを簡単に殺すことの出来る往人はどうなのか。

 『ニユギア』にいる時は気にならなかったが、ここでは『普通の人間』をより強く感じてしまう。

 「往人は、ずっと往人だよ」

 しかし、佳奈はそんな往人を怖がることなく歩み寄り優しく抱きしめる。

 恐ろしいバケモノにも怯むことなく向かっていき、そして事も無げに倒して見せる。

 佳奈の知る往人とは違う面もあるが誰かを守るために立ち上がる、佳奈のよく知る幼なじみに変わりはなかった。

 「大丈夫。ちょっと驚いたけど、往人は往人。その力も誰かを守るために使うんでしょ?」

 「佳奈……ああ。仲間を守るためにな」

 「ならいつもの往人だよ」

 その言葉に救われる。

 創りものかもしれない。それでもこの温もりに往人は助けられる。

 


 「あ、アハハ……ゴメンね。なんか、勢いで抱きしめたりなんかしちゃって」

 咄嗟の行動だったからか、佳奈は顔を真っ赤にしながら往人から離れる。

 往人も急激に気恥ずかしくなって、頬をかいて誤魔化す。

 「いや、別になんて言うか……アハハ」

 こういった時に気の利いたセリフの一つでも言えれば、と情けなさを嘆く往人。

 何となく気まずい空気が二人を包む。

 「出る方法を探すか」

 「うん。早く出て、午後からは授業に出なくちゃね」

 ぎこちなさで溢れた動作で、三階へと階段を進む二人。

 会話もなく、ただ静かに歩くだけである。

 (しかし……なぜ急に俺たち以外の人間が消え、あんなバケモノが現れたんだ? 魔族や天族って風でもなさそうだしな……)

 『ニユギア』でも見たことないバケモノ。もちろん、その全てを知っているわけではないので絶対にあの世界の生き物ではない、とは言えないが何となく違うような気がする。

 往人はこういった時に頼りになる二人の顔を思い浮かべていた。

 (アイリス……リリムス……クリスもどうしているだろうか)

 恐らく、ナルがこの異世界に連れ込んだのは往人だけだろう。

 彼女はどうも往人だけに興味があるようだった。

 『天の女神』も『魔の王』も、往人を強くする為としか考えていないようだった。


 「どうしましたか? 何かお困りですか?」

 その時、一室の扉が開きそう言った言葉が二人の耳に飛び込んできた。

 その声には聞き覚えがあった。

 扉から出てきたその人物。

 支給品の青いくたびれたジャンパーを着用し、頭髪は薄くなり中年の悲哀を感じさせるその姿。

 「お困りでしたら、お渡しした名刺をご活用頂ければ幸いでございます」

 先ほど往人たちに話しを聞いた中年の男。その姿に往人たちも安堵しただろう。

 「葛西さん……それは?」

 

 葛西がその手に人間の腕を持ち、口元が不気味に真っ赤に染まっていなければだが。

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