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182話 司法の監獄 Justice_IN_The_Malice part3

 現れたのは、悍ましい姿のバケモノだった。

 以上に発達した上半身。それに反比例すように小さい脚部。人体構造的にあれで歩けるのが不思議なほどだった。

 だが何よりも、普通ならば身を包んでいるはずの皮膚が全て剥かれていて、まるで出来の悪い人体模型のようになっているのが恐ろしかった。

 水っぽい音の正体は、そのバケモノが手に持つ肉塊。正確には人間の上半身だった。力任せに引きちぎったのか、夥しい出血がありそれがぐちゅぐちゅと音を立てている。

 バケモノの口元も不自然に真っ赤に染まっているのを見ると、食べているのだろうか。

 「なんだこいつ……?」

 その呟きに反応したのか、ギョロリと瞳を往人の方へと向ける。

 異様に血走り、狂気と凶暴性が滲み出た瞳を。

 

 ――グゥオオオオオオオオ!!!!


 バケモノが吼える。

 生きた肉を目の前に興奮でもしたのか、手に持つ肉を放り捨てて小さい足で駆ける。

 とてもその足でが出しているとは思えないような速さで。

 「こいつ……っ!!」

 丸太のように太い腕が迫る。

 往人はそれを防御魔法で受け止めるが、巨腕から生み出される膂力(りょりょく)。その衝撃が、足のケガにさらなる痛みを訴えさせる。

 「ぐぅ……」

 ただ荒れ狂うだけのケダモノではないのか、往人のその一瞬の怯み。それを見てチャンスとばかりに両手を組んで往人の頭へと勢いよく振り下ろす。

 「やらせるかっ!!」

 往人は手のひらから魔力を噴出させる。

 ブースター翼。

 噴出点を背中から手のひらへと変えることにより、往人は後方へと吹っ飛ぶようにして攻撃を躱す。

 だが狭い廊下。往人は勢いあまって壁へと背中を強打してしまう。

 「痛ってぇ……」

 背中をさすりながら立つ往人。それでもバケモノの攻撃を受けるよりかはマシだろう、とヒビが入り数センチはへこんでいる床を見て思う。

 「っ!? やらせるかよ!!」



 まだジンジンと鈍い熱を帯びて痛む足。それを無視して往人は叫び駆ける。

 バケモノは逃げ回る往人ではなく、意識のない佳奈へと狙いを定めたのだ。

 叩き潰そうとでもするのか、広げた手のひらを勢いよく佳奈へと繰り出す。佳奈はまったくの人間。あんなバケモノの一撃を、たとえ指先一つでも触れれば死は免れない。

 「この……クソボケがぁあああああ!!!」

 身体強化で跳びあがり、そのままケガをしていない方の足で跳び蹴りを放つ。

 凄まじい威力の蹴りは、佳奈へと届くその寸前で巨腕に命中。さらに圧し折るだけに留まらずに、引きちぎって壁へと巨腕を縫い付ける。

 

 ――ガアアアアアアア!?!?!?!?!

 

 何が起きたのか分からない、とでも言うようにバケモノは痛みと困惑で咆哮し暴れ狂う。

 「このまま押し切る!!」

 片腕だがそれでも必殺の威力は持つ。しかも狙いも何もなくただ振るうだけ。

 しかしそれで往人は止まらない。無関係な幼なじみまで巻き込むナルのやり方にむかっ腹が立って仕方がない。

 握る拳に炎を纏わせる。そのまま駆ける往人へと巨腕が迫る。だが、往人はそのまま駆け、纏わせた炎を一気に肥大化させる。

 まるで往人の右拳が燃える太陽になったかのようだった。

 「はあああああ!!!!!」

 迫る巨腕が太陽に飲み込まれる。当然、それだけではない。

 バケモノはその熱さも、痛みも感じる間もなくそのまま足を踏み出し拳を振り抜いた往人によって全身を炎に包みこみ焼失させた。

 


 「はぁ……はぁ……佳奈が気を失っていて良かったな」

 緊張の糸が切れ、往人はまだ目を覚まさない幼なじみの横へと座り込みながら呟く。

 普通に魔法を使ってしまっていた。

 佳奈を守ることに集中していて、そこまで意識が回らなかったのだ。

 「とは言っても、あんな奴がまだいたんじゃかなりヤバいな……」

 何をすれば出られるのか分からないこの状況で、まだほかにもあんなバケモノがいると佳奈を守りながら進むのは相当に困難である。

 

 願わくば今しばらくはこのまま眠っていてほしいと思う往人だった。

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