表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/317

18話 天の剣は勇気と共に The_EX-calibur part5

 光刃に斬り裂かれた肉体が、その形を維持できずにボロボロと崩れ去りながら落下していく。

 建物の屋根や地面にぶつかる度ボトッ、ボトッ、と嫌な音を立てている。

 住人や通行人がそれを迷惑そうに、あるいは不思議そうに見る。

 「……死んだのか?」

 その光景に、追いついた往人ゆきとが吐き捨てるように言う。今の往人は『霊衣憑依ポゼッション』によって背から白く輝く二対四枚の翼を生やし空に立っていた。

 (恐らくは逃げただろうな。あの体も受肉術式によるものだろう)

 「じゃあ、また犠牲になった人が……」

 往人は悔しそうに拳を握る。先ほど、宿で見た光景が頭から離れなかった。 


 

 バルドルとの戦いは宿をあちこち破壊する規模の大きいものになってしまった。

 だというのに、従業員が誰一人として駆けつけなかったのだ。

 恐怖で体が動かなかった? それもあるかもしれない。

 だが、だとしても遠巻きに何があったか確かめる者が誰一人いないのは不自然だった。

 その答えは簡単なものだった。

 宿の従業員は皆、バルドルによって殺されていた。

 恐らくは一人残らず。そのすべてが倉庫だろうか薄暗い部屋にすし詰め状態で押し込まれていたのだ。



 「ダーリン……」

 土塊で新たな肉体を確保したリリムスも、往人へとかける言葉を見つけられないでいる。

 (今はこの町を離れよう。このままここにいてもいたずらに被害を拡大させるだけだ)

 「宿の人たちを放っておくのか!」

 つい語気が荒くなってしまう。当然アイリスの言っていることは正しい。

 このまま往人たちがこの町にいたところでメリットは何一つないのだ。むしろ長居すればしただけ、また襲って来る連中からこの町が被害を被るだけである。

 だとしても、往人にはあの宿の、詰め込まれた人たちをそのまま見過ごして町を離れる事を選びたくはなかった。

 それが単なる甘えだと頭では理解わかっている。でも心がそれを認めないのだ。

 「ゴメン……駄目だよな、俺」

 翼は輝きを失い、高度も落ちていく。アイリスのサポートで路地裏に隠れるように着地し、二人は霊衣憑依ポゼッションを解除する。

 「ユキト、気持ちは分かる。私もここで何もできずに町を去るのは心苦しい。だが、それでも今は町を出なければならないんだ」

 「ちょっとぉ、追い詰めすぎなんじゃなぁい? 今のダーリンには時間も必要よぉ」

 肉体的、精神的に疲弊している往人を庇うように、アイリスへと詰め寄るリリムス。

 本音としては彼女も、一刻も早い町からの出発を考えているのだが、世界が違うとはいえ同族である人間の『死』を見すぎている往人を思うと、つい甘い事を言ってしまうのだった。

 「ありがとうリリムス。頼むアイリス、少しでいい。あの人たちをあの押し込められた状態から解放したい」

 「……魔王」

 しばしの沈黙の後、アイリスが重い口を開く。

 「なぁに?」

 それは仇敵への頼みの言葉。

 「人払いの魔法は使えるな?」

 「この体じゃあ長くは持たないわよぉ?」

 「私もさ」

 そう言いながら宿の方向へと足を進めるアイリス。

 「アイリス……」

 一瞬、あっけにとられた往人にアイリスはこう言った。

 「行くんだろ? 早くしよう。また襲われたらかなわない」

 


 案の定、宿にはすでに黒山の人だかりが出来ていた。

 幸か不幸か、まだあの仰々しい恰好の者たちは来ていないようだ。

 「じゃあ、準備はイイわねぇ?」

 「ああ、始めてくれ」

 魔王と女神が、並び立ち魔法陣を展開する。薄紫と紅色の魔法陣は一つに重なり合い、白銀へとその色を変えていく。

 魔法陣の輝きが群がる人々の足元へと大きく展開されると、喧騒は静まり返り一人、また一人と宿から足が遠のいていった。

 「さぁ、ダーリン。早くねぇ、さっきも言ったけど長くは持たないからぁ」

 宿が中心となって展開された人払いの魔法の中で、三人はあの場所に立っている。往人たちが来なければ、普通に明日を迎えていたであろう人たちが物言わぬ死体へと変えられてしまった場所に。

 「う……」

 改めてその凄惨な光景を目の当たりにして、往人は気分が悪くなってしまう。

 それでも人々を引っ張り出し、近くの大部屋へと寝かせる手を休めようとはしなかった。

 「これで……最後……」

 

 最後の一人を並べ終わり緊張の糸が切れたのか、往人はそのまま意識を失っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ