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174話 それもまた異世界 Another_Real

 輝きが収まる。

 「う……」

 光に焼かれた瞳をゆっくりと開く。ぼやけていた視界が徐々にハッキリとしてくる。

 「……っ!? なんだ……これは?」

 しかし、往人(ゆきと)は自身の目、もしくは脳はおかしくなってしまったのかと思った。

 ハッキリとなった視界。だが、そこに映るものは、あり得ないもの。

 

 往人の目の前に広がっていたのは、現実世界だった。


 「どうして……?」

 見覚えのある広場。いつ見ても止めてある自転車。高校からの帰り道に買い食いをしていたコンビニ。

 その何もかもが往人の記憶にある景色と一致していた。歩く人並みの中には、見たことのある人物の顔すらあった。

 「帰ってきた……のか?」

 本当にそうなのだろうか。


 

 謎の少女ナルによって異世界『ニユギア』へと連れてこられた往人。

 『魔王』を名乗る美女リリムスと、『女神』を名乗るこちらも美女アイリス。さらには人造人間であるクリスと出会い、旅をしてきた。

 『勇者』だと言われ、及ばずともそう在りたいと努力はしてきた。

 その結果がこの状況なのだろうか。



 「違う……そうだ、ナルは言っていた。ゲームがどうって。だからこれはヤツの仕掛けた遊び。この世界もヤツの魔法によるもの」

 あの時。ナルの左目。その金色の輝きがこの世界へと往人を引きずり込んだのだろう。

 往人に何かをさせるために。

 実際、往人は服装も持ち物も『ニユギア』にいるときと変化はない。つまりは腰から剣を下げている。

 今の光景にはあまりに不釣り合いな所有物。

 周囲の者たちも、その異様な恰好の少年を遠巻きに眺めている。

 

 ――あれは一体何なのかしら?

 ――よく話題になる動画配信者とかじゃない?

 ――もしかしたら、ホントに危ない人かも……


 そんな会話が往人の耳にも飛び込んでくる。

 (……この場に留まり続けるのはマズいか?)

 かと言って、そそくさと立ち去れば自分が怪しい人間です、と宣言しているようなものである。

 ならば、配信者のフリでもと考えてもスマートフォンは件のナルに奪われていて持っていない。

 (くそ、あの女……なんて言ってても仕方ないか)

 とにかく、往人は自身への言葉を聞かなかったことにしてその場を去ることにした。

 なるべく堂々と。そうしているのが自然であるかのように振舞って歩く。

 往人の住む街はそれなりに大きい街である。それは人同士の繋がりが薄い、ということでもある。

 往人がそうして、さも当然のことと振舞っていれば、大抵の人たちはそう言うものなのだろうと気にせずに素通りしていく。

 


 「ふぅ……取りあえずは何とかなったか?」

 小さな河川敷。薄暗い橋の下で、往人は一息ついて周囲の様子を伺う。

 歩いてきて、おおよそ十分ほど。大きな騒ぎにはなっていない様だった。

 怪しいとは思っても、なんだかんだ人は通報などはしないものである。

 他の誰かがやるだろう。面倒ごとに巻き込まれたくはない。そう言った思考が働き、行動には移さない。

 嘆くべきことなのかもしれないが、今の往人にはそれが助けだった。

 「しかし、これからどうすれば……」

 何をするにも、腰から下がっている重荷。それを何とかしなければ思うようには動けない。

 いくら何でも警察の前をこの格好で歩いて、素通りは出来ないだろう。

 「……家に戻るか?」

 この世界がどこまで現実世界に忠実なのかは分からない。

 だが、今の往人にはそれが最善の策に思えた。この川から家までは歩いておよそ十五分ほど。

 そのくらいの距離ならば、何とか人目につかずに帰ることも出来るだろう。

 「後は母さんがどうかな……」

 先ほどの広場にあった時計が指し示していたのは午後四時三十分。往人の母親がパートタイムから帰って来るのは午後五時。

 広場からここまでは十分ほど経過していると考えると、鉢合わせになることも十分考え得る。

 「やるか……?」

 間に合う方法はある。

 往人は精神を集中して、背から魔力を少しずつ放出していく。

 そう。それは往人が使う飛行魔法。自身の背から魔力を噴出して飛ぶブースター翼。

 それを使用すれば、家までの距離などはあっという間である。

 しかし、空を飛ぶというのは非常に目立つ。恐らくはかなりの人間に見られるだろう。

 だからと言って、この場にいつまでも留まるわけにもいかない。

 段々と人の往来も激しくなる時間帯。そうなっては剣を下げたまま歩くのも難しくなる。

 「やるしかないか……」

 往人は、決心を固めて背から魔力を勢いよく噴出する。

 

 

 「フフ。ま、頑張ってくれよ。神代クン」

 尾を引きながら空高く翔ける少年を見つめ、黒い少女はそう呟いた。

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