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173話 超越セシ者 Nar

 「あ……ああ」

 肉塊へとなることで、ようやく人として終わることができたバルカンを見てサンドロスが僅かに呻く。

 「なぜだ。魔導書の研究が間違っていたというのか……?」

 恐怖に支配され、もはや何かを出来る精神状態にはない。

 「さてと、悪いけどコレは貰っておくわぁ。ま、アナタもこれに懲りたらおかしな研究はやめることねぇ」

 崩壊したVIP席。その瓦礫の中から、リリムスは一冊の本を見つけ出した。

 それこそが求めていた『魔導書』。今回の騒動を引き越した元凶。

 「これが四冊目か……」

 『霊衣憑依(ポゼッション)』を解除し、二人に戻ったアイリスがまじまじと見つめて言う。

 相変わらずその表紙には古ぼけていて題名は読み取りことができない。

 わずかに残った部分には『…クロ…ミ……』と記されていた。

 「うーん、やっぱりタイトルは分からないな」

 「魔導書は全部古いからねぇ。ワタシの魔導書も題名は不明なのよぉ」

 タイトルは不明だが、それでも『魔導書』としては機能する。

 そして、機能するということはその所有者がいなければならないということ。

 曲がりなりにも所有者になっていたバルカンは死んだ。すなわち、この古ぼけた本は新たな主を求めている。 

 「ワタシかダーリンが所有者になるべきなんだけどぉ、どうしたいかしらぁ?」

 リリムスが聞く。

 デメリットに対する対処や技量を鑑みればリリムスが持つのが一番無難ではある。

 しかし、戦力の拡充を考えれば往人が持つという選択肢が一番有効ではある。

 今のリリムスでは『霊衣憑依(ポゼッション)』無しでは『魔導書』の力は十全には使いこなせないのだから。 



 「ボクとしては神代クンが持つべきと思うがね」

 その時、四人の頭上で声がした。

 鈴を転がしたかのような声。往人と、そしてクリスはその声の主に覚えがあった。

 「……ナル」

 そこにいたのは黒と白のチェック柄のワンピースに身を包み、金色にも銀色にも見える長い髪を靡かせた美少女。

 ナルがニコニコと笑いながら、宙をプカプカと漂っていた。

 「やぁやぁ。どうやら無事に闘技大会は勝ったみたいだね」

 惨状を見ながらも、そんなことを言ってのけるナル。

 往人以外はどうでもいいと言わんばかりの言動に、アイリスが眉をひそめる。

 「貴様がユキトをこのニユギアに……?」

 「うん? ああ、主神……いや、キミの場合だと女神か。そうさ。ボクが神代クンをこの世界へと案内した、ナルさ。よろしくね」

 「何しに来た」

 往人の声は冷たかった。敵意を一切隠さずに言い放つ。

 しかし、彼のそんな態度にもナルは笑顔を崩すことはない。

 「やだなぁ。そんな怖い顔をしないでよ。ボクは新しいこのワンピが似合っているか聞きに来ただけだよ」

 ナルはワンピースのスカート部分の裾を掴んでひらひらと回る。

 その仕草が妙に似合っていて、可憐という言葉がピッタリだった。

 「どう?」

 「どうでもいい。お前が何を着ていようと俺には関係ない」

 


 往人は剣を抜き、それを答えとする。

 「神代クンこそ、なんのつもり?」

 「もう一度勝負だ。なぜ俺をニユギアへと連れてきたか教えてもらう」

 睨む往人を見て、呆れた様子で額に指を当てわざとらしく首を振るナル。

 「やれやれ、今のキミではボクには勝てないと思うよ? だいたい、それを知ったからって……」

 「やるのか、やらないのか。どっちだ?」

 「……まぁいいや。そこまで言うなら遊んであげる。ただし、神代クン一人でね。いいかい?」

 頷く往人。だが、当然その行為には反対意見飛び出る。

 「何を言っているんだ! あんな危険な奴に一人で戦うなんて。何かあったらどうする」

 「そうよぉ。せめて霊衣憑依(ポゼッション)くらいはしないとぉ」

 「ゆきとおにいちゃん、危ないことはしないでほしいよ」

 しかし、往人は三人の言葉でも止まらなかった。剣に魔力を込めてナルと対峙する。

 「ゴメン。でも、これは俺がやらなければならないことなんだ。なんでかは分からない。でも、それでも俺一人で戦わなくちゃいけないことなんだ」

 「アハハ! やっぱりキミは面白いよねぇ。神代クンを見ていると退屈しないよ」

 


 「舐めるなッ!!」

 剣を振るう。込められた魔力が斬撃となってナルへと飛ぶ。

 正確に、一切の狂いなくナルの首を斬り落とさんと刃は進む。

 しかし――

 パン、と乾いた音が小さく鳴り、刃はナルに届くことなく消滅してしまった。

 破壊され、霧散したのとは違う。まるで魔法をキャンセルしたかのように。

 「何かしたかい?」

 「……くッ」

 圧倒的な力の差。それをたったの一手で思い知らされる。

 「拒絶の力……」

 リリムスが呟いた。

 マルバスとの戦いの中で見た魔法とはまったく違う力。

 往人を操り見せた力。

 「ああ、そうだったね。魔王は一度ボクの力を見ていたっけね」

 「まだ、負けていない! よそ見をするな!!」

 再び剣を振るう往人。そこに纏わせたのは黒く禍々しい『気』。すなわち『魔導書の力』。

 凄まじい破壊の力がナルへと襲い掛かる。

 「残念。今日も勝てなかったみたいだね」

 ナルの瞳が怪しく光った。鈍い銀色の輝きを放つと、それだけで往人の剣を包む『気』は効力を失う。

 「これも……ッ!?」

 しかし、駆けだした体は止まらない。勢いそのままにナルへと進んで行ってしまう。

 「さて、負けた神代クンにはちょっとしたゲームでもしてもらおうかな?」


 眩い金色の輝きの中で、往人はその言葉が耳に飛び込んで来ていた。

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