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17話 天の剣は勇気と共に The_EX-calibur part4

 ガギィイイン!!!

 おおよそ肉と肉のぶつかり合いでは出ない音が響き渡った。

 バルドルの拳は、薄紫に輝く障壁により防がれる。

 「ワタシを置いてきぼりにしないでもらえるかしらぁ」

 それは魔王の、リリムスの張った防御魔法。

 だが、それも長くはもたない。アイリス同様、リリムスもまた、人間界での弱体化が大きく響いていた。そのうえ、不完全な受肉術式の相まってろくな魔法は使えなかった。

 「魔王……大人しくしていれば、もう少し長生き出来たものを」

 「それは残念ねぇ。ここで死にゆくアナタに祈りでも捧げてあげるわぁ」

 見下したような視線を向けながら、手を重ね合わせて祈りの真似事をして見せるリリムス。

 その仕草は、目の前の天族をいたく怒らせたようだった。

 


 「ふざけた事をっ!! 魔族風情が!」

 身体強化の魔法はまだ生きていた。

 超高速でリリムスの背後に回ると、そのスラリとした美しい背中へと渾身の蹴りを放つバルドル。

 「意外と直情的ねぇ」

 ニヤニヤと嘲笑いながら、バルドルの蹴りを受けるリリムス。強化された蹴りはゴキゴキと鈍く嫌な音を立てながら、彼女の肉体を破壊していく。

 いくら仮初とはいえそれなりの苦痛はあるはずだろうに、それでも笑みを崩すことはなかった。

 「これをっ!!」

 体が崩れ切る前にリリムスは何かを投げつける。

 それをアイリスはキャッチし、手の中に収まった物を見る。

 「鍵……そうかっ!!」

 それは古ぼけた鍵だった。何に使うかを理解したアイリスは、それをうずくまってもがいている往人ゆきとへと近づける。

 パアッ、と一際強い輝きを鍵が放ったかと思ったら、鍵は役目を終えたかのようにサラサラと細かい粒子となって消えていった。

 その代わり――

 「やっと自由になれた」

 戒めから解放された往人が肩を回しながら立ち上がっていた。


 

 「なんだと……まさか、さっきのは!?」

 先ほどの鍵。

 それは一度だけ魔法を強制的に無効化するマジックアイテム。これによりバルドルが往人の衣服に仕込んだ戒めの魔法を解除したのだった。

 「まずいっ!!」

 バルドルが駆けだす。自由となった往人を放っておくことは出来ない。

 今、あの少年のそばには誰がいるのか。

 「くっ!?」

 足が動かなかった。鋼鉄の重りを括りつけられたかのように足が床から離れなかった。

 なぜ? そんな疑問を思うよりも先に答えが頭の中に響き渡った。

 (ざぁんねん。ワタシの体を砕いたのは悪手だったわねぇ)

 「魔王……」

 先ほどバルドルが破壊したリリムスの仮初の体。

 その破片が足に付着し動けなくさせていたのだった。

 


 「……時間がない。いくぞユキト」

 「ああ」

 往人とアイリスは、先ほど同様に右手を重ね合わせる。

 そして再び呪文を唱え始めた。


 「「聖なる光を灯す魂よ、真なる秩序を我が前に示せ。契約の元に、今命じん!!」」


 右手から湧き上がる熱が全身を包む。

 互いの魂が混ざり合い、大いなる力へと変わっていく。

 ドグン! 体の奥から響く鼓動に往人の体が大きく跳ねる。

 (よし、今度こそ成功だ)

 往人の頭に声が聞こえた。

 アイリスの、自身に力を与えてくれる契約者の声が。

 「覚悟しろ、バルドル」

 往人は燃えるように紅く染まった、アイリスと同じ色の瞳でバルドルを睨み据える。

 「くっ、おのれぇ……」

 まだ、ほんの僅かな時間だが身体強化魔法は持続している。

 その全てを脚力の強化に回し、バルドルは駆けた。

 

 

 「なっ!? 待てっ!!」

 壁を破壊し屋外へと一気に飛び出したバルドルへと叫ぶ往人。

 霊衣憑依ポゼッションした往人と戦っても勝てないと踏んだのか、全力で逃げることをバルドルは選択したのだった。

 身体強化をフルに使って、すでに小さな粒のようになっているバルドル。

 「このままじゃ逃げられる……え?」

 頭に響く声に従い、半信半疑ながらも霊衣憑依ポゼッション時に左腰に現れた二振りの剣。上下に下げられた内の上側の剣を抜く往人。

 「こうか?」

 声の導くままに顔の横で剣を構える。

 「はぁああっ!!!」

 そのまま、勢いよく叫びながら剣を、もうほとんど見えなくなっているバルドル目掛けて一気に突き出した。

 

 ヒゥン!!

 

 一瞬、風が斬り裂かれる小さな音が聞こえた。そしてそれは、豆粒のように小さくなったバルドルの体を、青白い光の刃が真っ二つに斬り裂いた証明でもあった。

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