169話 混沌の宴 HEROs_Parade part5
ドサリ、とスピネルの小さい体、その上半身が崩れ落ちる。
「次は誰だ?」
冷酷に告げる往人に、他の四体のスピネルたちが焦りの色を見せる。
「勇者再現体である、我らを破る者がいるなんて……」
「落ち着け、ここは連携で行けばいい」
「しかし、あれだけの速度、追いつけるのか……?」
「…………」
しかし、そのどれもが恐怖を抱いているのか、先陣を切る者が現れない。
そしてそれを見逃すほどに甘くはない。
「まだまだ、経験が浅いわねぇ」
「っ!?」
雷のドリルがスピネルの一体へと迫る。完全に往人に気を取られていて、対応が遅れる。
杖を握る右手が吹き飛ぶ。
「ああああああ!?!?!?!?」
絶叫が周囲を包み込む。
夥しい、青紫の血液が途切れた肘先から吹き出ている。額には玉のような汗が浮き、パニック状態へと陥っている。
「マズい! 再生をさせないと……っ!?」
「させると思うか?」
指示を飛ばそうとしたスピネルへと、灼熱の軌跡が閃く。それはアイリスの振るった炎剣の一撃。
いとも簡単に、スピネルの足を灼き斬る。
それが熱さによるものか、それとも痛みによるものか。スピネルには判断が出来なかった。
ただ一つ言えるのは、それが言葉すらも失わせるほどの苦痛だということだった。
「ッ!?!?!?!?!?!?!?」
もはや二人は戦闘不能。痛みによって錯乱状態に陥り、再生魔法を使うどころではなくなっている。
「No.9とNo.4.まで……だが、ここで負けるわけには!!」
「ならばワタシが行こう。No.11、オマエはサポートを頼む」
そう言って、残ったスピネルの一体がその背から翼を展開する。
黒く禍々しい『気』による翼。
戦闘機のジェット噴射のように、爆発的な加速度を術者に与える魔法。
それは往人と同じ、ブースター翼だった。
「扱いにくさはあるが、確かに強力な魔法だな」
「専売特許のつもりはないけど……なッ!!」
二つのブースターが激突する。
一つは背から、もう一つは脚からブースターを吹かしている。
「ふん、その背の重荷を捨てれば楽に戦えるだろうに」
「お前には、クリスが俺の重荷に見えるのか?」
「違うと?」
スピネルが背中のブースターの出力を上げる。対する往人は、クリスのことを思ってか出力は現状維持。
もちろん、それでは差が開いていく。
「仲間意識も結構だが、それで死んでは元も子もないだろうに」
「違うんだよ。俺はクリスがいてくれるから、この力を使いこなせているんだよ。それに気が付かないんじゃあ、勇者と呼ぶにはちょっと相応しくないな」
凄まじい速度で迫るスピネル。
しかし、往人にはその軌道が完全に視えていた。当然である。往人にとっては自分の魔法。
どう行使すれば、どのように効果を示すかは理解っている。
ブースター翼に必要なのは出力ではない。タイミングなのである。
「小手先で使うべき魔法ではなかったな」
その言葉通り、超高速の蹴りをほんの数ミリ体を動かすだけで躱す。そして返す刀で噴出点を手首へと変更し、剣による刺突を放つ。
躱せる距離ではない。もちろん防御魔法も間に合わない。
往人の剣が、スピネルの肩を貫く。
「ぐぅうう!!!」
「このままッ!!」
刺さった剣を振り上げ腕を斬り落とそうとする往人。しかし、そうするためには足を止めざるを得ない。
「……フッ、止まったな」
「? なっ!?」
横から現れた腕が往人の動きを止める。それはナンバーイレブンと呼ばれた個体。
最初からそれが狙い。自身が囮となり、動きを止めるのが目的だったのだ。
「今だ! No.2! この男を……!?」
叫ぶナンバーイレブンの目が大きく開かれた。それは驚愕によるもの。
なんと、ナンバーツーは動きを封じたナンバーイレブンごと、杖先に纏わせた氷の刃で往人を貫いたのだ。
「コイツ……!!」
脇腹を刺され、苦痛に顔が歪む。だが、それ以上にナンバーイレブンが見せた表情が往人の心を大きく揺さぶった。
「なん……で……?」
その悲しそうな、辛そうな瞳。急速に色を失うその瞳が、あまりにも衝撃的だった。