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167話 混沌の宴 HEROs_Parade part3

 「なんだ、これは一体!?」

 アイリスとリリムスが背中合わせで立つ。二人で力を合わせて防御魔法を展開していた。

 その光景は、二人をよく知る者が見れば泡を吹いて倒れたかも知れない。

 それほどまでに異様な光景だった。

 


 「チッ……このワタシがアナタと組んで防戦一方なんて、魔王の肩書が泣いているわぁ」

 「フッ、元・魔王だろ? そんなモノに執着などないくせに」

 互いに軽口を叩きながらも、状況は最悪。

 左側から迫る大火球をリリムスが雷撃を走らせ斬り裂き霧散させる。

 その霧の中を駆け抜け、スピネルの一人にアイリスが剣を袈裟懸けに振り下ろす。

 「させると思いますか?」

 しかし、別のスピネルが星飾りの杖を振るうと狙われたスピネルの前に防御魔法が展開される。

 さらに別のスピネルがその障壁を強化して、アイリスの炎剣を防ぎきる。

 「一人ずつなら何とかなるが……っ!!」

 別方向から飛来する火球を躱しながら歯噛みするアイリス。どうしても手が足りない。

 『魔王』と手を組んだとしても、それでも一手足りなくなってしまう。

 「アイリス、リリムスッ!!」

 二人へ迫る雷球。二人のスピネルによって肥大化したそれが、目の前で停止し少年の叫びとともに斬り裂かれ霧散する。

 「ユキトッ!」

 「ダーリン……!」



 まさに救い。ここで往人が合流してくれたのは非常に大きい。

 「大丈夫か?」

 「ああ、来てくれたのか」

 「ああん、なんてカッコイイタイミングで来てくれたのかしらぁ。ホントに嬉しいわぁ」

 「それよりも、一体何が起きているんだ?」

 「それなら、この私が説明してあげようか」

 降り注ぐ声。それは若い男の声。

 往人が振り向くと、そこに立っていたのは『メロウ帝国皇帝』サンドロス=オルバン。

 首元に白い毛皮が装飾された黄金色の鎧を纏った彼が、五人のスピネルを従えていた。

 「やはり魔導書を奪いにやって来たか。悪辣なる人外の(ともがら)よ」

 「なんだと……」

 「ふん、人の皮を被ったとて誤魔化しきれるものではない。何よりもその異常なまでの魔法の才。そしてカミシロ、貴様の使う魔導書の力が何よりの証拠。それで人だとよくも言えたな」

 そう言うと、サンドロスは手に持つ剣を掲げ背後のスピネルたちへと指示を出す。

 「さあ、改めて行け! 我がメロウ帝国を護りし勇者たちよ! その伝説に謳われし力でもって悪なる者を滅せよ!!」 

 「勇者だと!?」

 迫るスピネルの一人。杖先に氷の刃を纏わせ往人へと振るう。

 「まさかこいつら!?」

 思い当たる存在があった。

 往人の脳裏に浮かぶ光景。いくつもの容器に浮かぶ胎児。そしてそこに書かれていた文言。


 ――勇者再現実験体。


 そう。目の前の少女は『勇者』の伝説を再現するために造り出されたデザインベイビー。

 実験を行っていたのは『チア国』だけではなかったのだ。

 「くっ……テメェ!! クローン体なんてなぜ造った!!」

 「うん? ほう、スピネルの出自に気付くか。ああなるほど、チア国の施設を襲ったのは貴様らだな?」

 「質問に答えろ!!」

 往人がスピネルを振り切り、サンドロスへ向けて斬撃を放つ。しかしそれは他のスピネルの張った障壁に邪魔され、皇帝の笑みを崩すことは叶わない。

 「なぜ、だと? 決まっているだろ。貴様らのような人外たちから国を護るためだ。正規騎士団では勝つのは難しいのでね。遺伝子改造による強化兵を採用したのだ」

 「ふざけたことを……」

 「人間たちの間では禁忌を侵すのが流行ってるのかしらぁ?」

 互いにスピネルの猛攻を凌ぎながらも、サンドロスの言葉に憤るアイリスとリリムス。

 また、スピネル同様に造られた人間であるクリスもその言葉に悲しそうな瞳をしている。

 「禁忌……か。私としては自国民を危険に晒させずに済む、この方がよほど建設的に思うがね?」

 実際、スピネルたちの強さは圧倒的だった。

 『チア国』で戦ったクオーツよりも、身体能力、魔法の威力と精度のどれもが上回っている。

 それが五人で連携して迫ってくるので、さらにその脅威度は上昇する。

 「ハハハ、どうだ? チア国のモノとはレベルが違うだろう? 魔導書の力も利用して造った兵たちだ。存分に味わえ」

 「だとさ!! 皇帝陛下の許しもある。お前たちが出来るのは無様に死んで、オレたちの力を白示す材料になることだけさ!!」

 恐らくは、大会に出ていたスピネルなのだろう。獰猛な笑みを浮かべながら、杖先に纏わせた氷の刃で襲い掛かる。

 その切っ先が狙ったのは、往人に背負われたクリス。

 「オラァ!! まずはそこのガキ一人、もらったぁ!!」

 しかし、その行為が往人の心に冷たい炎を灯す。


 「……もういい。そうだと言うのなら、やってやる!!」

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