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166話 混沌の宴 HEROs_Parade part2

 「アア……ガァアア!」

 虚ろな目、だらしなく開かれた口。とてもマトモとは思えない様相のフレデリックに一瞬往人は怯むがすぐに回避行動に移る。

 横へと体をずらしたその瞬間、往人の顔の真横を炎の矢が再び通り過ぎていく。

 「こいつ、この前は魔法を使わなかったのに……!!」

 力なく突き出された拳から放たれたとはとても思えないような高熱の矢。掠めた頬のジリジリとした痛みを感じながら後ずさる。

 「おにいちゃん、ワタシ離れてようか?」

 「駄目だ。ここでお前を置いたら守り切れなくなる」

 確かにここでクリスを背から降ろせば確かに戦いやすくはなる。しかし、もしも他の者がクリスを狙ってきたら間に合わない。

 ここは多少のリスクを取ろうともクリスと離れるわけにはいかなかった。

 「ウゥアア!!」

 三度フレデリックが炎の矢を放つ。今度は今までよりも太く、狭い通路の全てを塞ぐように放たれる。

 「チッ、だったら!!」

 片手でクリスを抱え、空いた手で剣を抜く。魔力を込め輝く剣によって矢、というよりももはやレーザーに近い状態のそれを一撃で切り裂く。

 幸い、と言うべきか見た目だけでそれほど威力は高くはない。

 簡単に霧散したレーザーの中を駆け抜け、往人はフレデリックへと一気に距離を詰め剣の峰の側で殴りつける。

 「ガアッ!?」

 短く呻き怯むフレデリック。その隙を逃さず一気に攻め立てる。

 「うぉおおお!!!」

 蹴りにブースターを乗せた重い一撃。そのハイキックがフレデリックの首筋を捉え、意識を一瞬で奪う。

 グッ、と小さく呻き声を出し、床へと崩れ落ちる。

 しばらく様子を見ていたが、再び動き出す気配はない。完全に無力化したことを確認すると往人たちは再び舞台へ向けて歩く。



 「しかし……あいつ何なんだ? 正気ではなかったが……」

 まともに会話も出来ない様子のフレデリック。それに魔法なんて使う様子はなかった。

 それなのに、今は威力は高くはないといっても魔法を使ってきた。

 「何が起きているんだ……早く二人を探さないと」

 「っ!? あぶない!!」

 クリスが叫び瑠璃色の瞳が激しく輝く。

 往人の眼前に雷の矢が迫っていた。あとほんの数ミリでも足を動かしていたら、無残な姿を晒していただろう。

 「……ありがとう、クリス。よく気が付いたね」

 「うん、この感じ……ワタシ、なんでか知っている。さっきのひとからもほんの少しだけど感じていた。でも、今はもっとつよく……」

 言いかけた時、通路の影から人が出てきた。

 それは二回戦目に於いてアイリスと闘った大女。往人たちは名を知らなかったが、一瞬で敗北したのは覚えている。

 「おいおい、今まで選手が大集合なんてやめてくれよ……!!」

 大女が掴みかかろうと、走り寄る。

 それを往人は躱し、背中へ向けて蹴りを喰らわせる。

 「くっ……防御を!!」

 フレデリックとは違い、大女の方は背中に防御魔法を展開し蹴りを防ぐ。

 しかし、その精度はやはり往人のブースターを乗せた蹴りを防ぎきることは出来ない程度で、大女の体は壁へと激突する。

 「ガァアア!!!」

 それでも女の動きは止まらず、勢いよく体を起こすと振り向き狂ったかのように雷の矢を乱射する。

 顔面が血まみれになっていたので、よく見えていないのかもしれなかった。

 「ヤバっ……!! これじゃあ近づけない!!」

 かと言って、遠距離の魔法を使ってしまっては相手を殺してしまうかもしれない。

 出来ることなら殺すのは避けたい。それが自らの意思での行動ではない者が相手なら尚更である。

 


 「まかせてっ!!」

 クリスがそう言って、瞳を輝かせる。

 暴れ狂う大女の体がビクッ、と急停止して矢の乱射が止まる。

 「くっ……ながくは持たない。おにいちゃん、急いで!!」

 「よしっ!! 一撃で決めるっ!!」

 往人は大女へと駆け寄ると、魔力を込めた拳でがら空きのボディを殴る。

 意識を奪われた女が、ぐったりと倒れこむ。

 これで二人目。一人一人はあまり強くはないが、面倒であることは変わりない。

 「クリス、ありがとうな。おかげで助かった」

 「ううん、ワタシもおにいちゃんたちの助けになりたいもん」

 なるべく殺しをしたくない今の状況に於いて、クリスの能力は非常に助かる。

 しかし、あまり上手く使いこなせない、と言っていたが今はかなりの精度で使えている。

 「この国に来るまでに、いっぱいれんしゅうしたから」

 往人もそれは見ていた。移動の間の一週間ほど、クリスは毎日のように自らの力の研鑽を積んでいた。

 その成果という訳だった。

 「ありがとう。ほんとに助かるよ」

 通路が途切れ、目の前には扉が現れる。それは目的地へとたどり着いたということ。

 目指していた舞台への扉。凄まじい爆発のせいか、少し歪んでいるが開けないということはなさそうだった。

 「……よし、開けるぞ」

 少し力を入れると、扉はギコギコと歪な音を立てながらゆっくりと開いていく。

 そして、その先に広がっている光景。


 そこには、アイリスとリリムスが何人ものスピネルと戦っていた。

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