165話 混沌の宴 HEROs_Parade
「おい! 離せっ!! 自分で歩く」
往人たちは騎士団によって会場から追い出されていた。
「アナタ……ロクな死に方死に方死ないわよぉ」
リリムスが、奥で睨みつけているバルカンへ鋭い視線を向けながら言う。その声は冷たく、射貫くようだった。
「そうかもな。だとしても、貴様たちが失格になった事実は変わらない。俺以上にロクな死に方をしたくなければ大人しく去ることだ」
それだけ言って、バルカンたち正規騎士団は戻っていく。往人たちの方は一度も振り返らない。
「どうするんだ? これでは魔導書をあのスピネルとかいう奴の手に渡ってしまうぞ」
「元々そのつもりなんでしょう? あの子供以外が勝ち抜けば失格にする、そうやって優勝させて魔導書を自分たちの手に残す。そういう筋書きなのよぉ」
そのリリムスの言葉に、往人はふと疑問に思った。
「でもあいつらは魔導書をどうしたいんだ? スピネルは一応この国とは関係ない事になっているんだろ? 大っぴらに使えないんじゃあまり意味はないような気もするけど」
そう。往人たちはスピネルが『メロウ帝国』の関係者だということは分かっている。だが世間的には特に関係のない一般人である。
ならば、その一般人に手渡した『魔導書』を『メロウ帝国』が表立って使うことは出来ないはずである。
そんな意味のないことをして何になるのか。そもそも、人間が『魔導書』を使うことは相当に難しいはず。
「さぁ? 他のヤツの手に渡すくらいなら死蔵でもさせた方がマシと考えたんじゃない? 狙いを国から個人にすり替えることも出来るしぃ」
もちろん、そんなことを許せば往人たちでは『魔導書』へと近づくことはほぼ不可能になる。
なんとしてもこの闘技大会中に『魔導書』を押さえなければならないのだ。
「仕方ないか……どのみち後ろめたい何かをしている国だ。力づくでも……」
そう言って、アイリスが剣を抜こうとしたその時だった。
――ドガガガガガガガガガ!!!!!!!!
凄まじい爆発音が連鎖的に会場内から響き渡る。そして、それと連動するように観客の声だろうか、悲鳴と怒号が爆発する。
「なんだ!?」
「魔法による爆発よぉ!」
アイリスとリリムスは迷うことなく閉ざされたコロッセオの扉を破壊して走り出す。
往人もクリスを背負い、二人の後を追ってコロッセオ内へと入っていく。
内部は爆発による影響で土煙が立ち込め、視界がほとんど効かない状況だった。
「うわ、こりゃ一体……?」
「おにいちゃん、気を付けて」
「え? うおっ!?」
間に合わず、往人は足元に転がる何かに蹴躓いて転びそうになる。何とか踏みとどまりその何かへと視線を向け、絶句する。
ちょっと柔らかいその何か。
それは死体だった。先ほど往人たちを追い出した正規騎士団の一人。その腕に往人は足を取られた様だった。
「これは……」
その死体には下半身はなかった。恐らくは猛烈な爆発を受け千切れ飛んだのだろう。
力づくで引きちぎったように、夥しい血が床に筋を作っていた。
「ねえ、おねえちゃんたちを探そうよ」
「ああ、そうだな……どこまで行ったんだ」
言いながら二人は視界不良の中を歩く。取りあえずは舞台がある方へ行けば何かわかるだろうと、足を向けたその時だった。
誰かがいた。晴れぬ土煙の中で黒い人影が揺らめいているのだ。
「アイリス? それともリリムスか?」
そう声をかけたが、答えはどちらでもなかった。
声の代わりに返ってきたのは、炎の矢だった。凄まじい速度で飛来するそれを往人は咄嗟に眼前で展開した防御魔法で受け止める。
魔法の発生点の任意変更。アイリスとの闘いで、習得していなければここで死んでいただろう。
「誰だっ!!」
鋭く発せられた往人の怒声。
ゆっくりと人影がその正体を表す。
「お前は……!」
そこに立っていたのは、二メートルを超す筋肉質の巨躯。四肢にはガンメタリックの装甲を身に纏った男。初戦で往人に敗北したフレデリック=ボガートだった。