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164話 天を統べし王 V.S. AILYS part5

 「決まったぁああああ!! この瞬間、今大会の優勝者がユキト=カミシロ選手に決定いたしました!!」

 

 ――ユキト!! ユキト!! ユキト!!


 会場がぶっ壊れるんじゃないかと思うような賞賛の嵐。

 その中心に立つ往人は、嬉しさとどこか困惑したような顔つきでもあった。

 「俺が勝てるなんて……」

 そう。往人は自身が勝てるとは微塵も考えていなかった。

 闘っているときは、無我夢中でアイリスの繰り出す妙技に追いつくだけで他のことを考えている余裕もなかった。

 ただひたすらに、対処をして有効そうな手札を切っていく。

 そして、その結果が『勝利』として舞い降りたのだ。

 だから、喜ぶべきなのか迷ってしまう自分もいた。

 「はぁ……はぁ……凄かったな、ユキト」

 しかし、アイリスはそんな往人に歩み寄ると笑顔で褒め称えてくれた。

 アイリスは決して手を抜いてはいなかった。

 一切の掛け値なしに、往人の実力が今のアイリスを上回ったのだ。

 「ああ……でも俺はまだあまり実感がないよ。天族の、それもその長であるアイリスに勝つだなんて」

 「フッ、なかなか出来る体験ではないぞ?」

 


 とにかく、これで往人は闘技大会で優勝を果たした。

 この国の思惑がなんにせよ、後は往人が『魔導書』を手にして終わりのはずである。



 「えーと……あぁ、これよりこの国の皇帝であらせられるサンドロス=オルバン陛下からお言葉があるそうです」

 予定にないのか、進行役の男が少々戸惑いながら言った。

 そして、VIP席から豪奢な衣服を身に纏った男が舞台に立つ二人を見下ろして言った。

 「ユキト選手優勝おめでとう、と言いたいところだが残念だよ」

 サンドロスは大仰に首を振りながら続ける。

 「君がまさか我が国の魔導書の力を悪用していたとは……」



 「なんだとっ!?」

 「何を言って……!!」 

 皇帝の言葉に、二人は耳を疑った。

 往人が『魔導書』の力を悪用している。そんな根も葉もないことを言われるとは考えていなかった。

 当然、周囲の反応も同じだった。会場はざわつき、進行役の男も何が起きているのか理解できないという風に固まっている。

 「キミは優勝という栄誉を賜りたいがために、この魔導書に何らかの細工を施して遠隔で利用できるようにした。そうだね?」

 「違う! 誰がそんなことを!」

 「しかし、キミがこの会場内を怪しい女とウロウロしているのを、我が国の騎士バルカンが確認している。それどころか交戦までしたそうじゃないか。それは魔導書の細工をしていたんだろう?」

 皇帝の横にはバルカンが立つ。そして、その言葉が事実だという風に頷いている。

 マズい、と往人は思う。会場内でバルカンと交戦をしたのは事実。それがどんな目的であれ、明確な『白』でない以上この不利をひっくり返すのは相当に難しい。

 「それは……スピネルの使う魔法が怪しいから、調査を……」

 「ほう。ならばなぜ、大会の運営に相談をしない? 独自調査など認めてはいないが?」

 そう返されると分かっていた。

 「それに、キミとアイリス選手は仲間だね。スピネル選手に勝った方がそのまま優勝をする段取りだったのかな?」

 「それは違う!! この闘いはあらかじめの取り決めなど存在しない。純粋に彼の実力だ!!」

 八百長まで疑われて、アイリスも叫ぶ。

 


 しかし、サンドロスの言葉は冷徹だった。

 「それをどうやって証明する? 事実としてキミたちは仲間なんだろ?」

 「くっ……!!」

 「よって、ユキト。アイリスの両選手を失格としスピネル選手を優勝扱いにしたいと思います」

 そう言って、サンドロスは会場内の者たちを見回した。

 観客たちは顔を見合わせているが、反対の声はない。というよりもまだ理解が追いつかずに賛成も反対も考えられないというのが正しいだろう。

 「それでは皆さん、少々残念な形ではありますがこれにて試合の全工程を終了とさせていただきます。表彰式は予定通りに明日行います」

 それだけ言うと、サンドロスは再び椅子に座り進行役の男を見やる。

 

 (フフ、これで目的は果たせる。後は奴らがどう動くか……だ)

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