163話 天を統べし王 V.S. AILYS part4
「うおおおお!!!」
白翼を翻し、迫るブースターブレードを躱すアイリス。だが、その速度はブースター翼の比ではなかった。
ホースから水を出す際に、口を少し塞ぐと放水の勢いが上昇するように、剣の峰の側から集中的に噴射される炎。
その狭い部分からの勢いは、爆発的な速度を往人へと与えている。
かなりギリギリの回避になってしまったが、それでも当たってはいない。
「このままっ!!」
白翼がはためく。それはアイリスの体を猛烈な速度で運び、往人へと近づけさせる。
往人も、ブースターブレードの勢いを制御しきれずに体勢を整えるのに精一杯だった。
「扱いきれない力をいきなり試すのは無謀な賭けだな!」
剣を振り抜く。いつもなら炎剣としたいところだが、まだ麻痺から回復するには時間が必要だった。
「チッ……なら!!」
体勢を整えるのに間に合わないと、往人はそのまま無理やりまたブースターブレードを吹かす。
その勢いのまま回転して、アイリスの振るう剣とぶつかる。
凄まじい勢い同士で衝突し、互いに弾かれ距離を取る。
「くっ、やる……だが!!」
先に動くのはアイリス。白翼を前方へと羽ばたかせ、突風を発生させた。
思わず顔をおおってしまう往人。だが、それは絶対にやってはいけなかった悪手。
ほんの僅かでも、アイリスの姿を視界から外せば待っているのは向こうのターン。次の瞬間には、剣が直前まで迫っている。
「しまっ……!!」
「はあああ!!!!」
袈裟懸けに振り下ろされる剣。往人はそれを真横へと跳び躱す。もちろんそれはその方向へ避けさせられた。体を反転させ、逆さになりながら白翼を振るうアイリス。
反応が追いつかずに輝く翼に殴りつけられる往人。その体は宙を舞い、自由を奪われる。
「まだだっ!!」
迫る剣に、ブースター翼を吹かし躱す。連撃の剣がさらに振られ、避けた先を狙う
「むっ!?」
しかし剣は虚しく空を斬る。そこに往人はいない。吹かしたブースター翼で何処へと行ったのか。
「っ!? 下かっ!!」
背ではなく腹側からブースター翼を展開し、舞台へとその身を叩きつけた往人。痛みを堪えながら、一気にアイリスへと近づき剣を振るう。
「はああああ!!!!」
「やるっ!!」
白翼を盾代わりに何とか受け止める。斬り裂かれた翼が霧散し、周囲に輝く雪のように広がっていく。
しかし翼は必要なくなった。麻痺の効果時間は切れ、アイリスの体を戒めているものは消え去った。
「させないっ!!」
当然、往人もそれは分かっていた。アイリスを自由にさせまいと剣を地面へと突き立てる。
「いけええ!!!」
ボゴゴッ!!! と不気味な音を立てながら地中から透き通った青色の杭が伸びる。
それは往人の持つ剣と同じ色。突き立てた剣を媒介に、往人が放った金属魔法。
「これは……っ!!」
「ダーリン、いつの間に金属魔法まで……」
習得も、行使も非常に難しいとされている金属魔法。
それを土壇場で使い、『女神』を追い詰めていく。凄まじい光景だった。
アイリスも迫る金属杭を炎剣で打ち砕きながら、反撃の糸口を掴もうとしているがリリムスの見立てでは恐らく無理だろう。
明らかに金属杭の発生速度に追いついていない。というよりも、砕いた杭が地面に触れるたびにそれが新たな媒介となって加速度的に増えていく。
「フッ……初手であの女神サマが砕くであろうと読んであの魔法をってことかしらぁ?」
「まだ……だあああああ!!!」
炎剣の出力を引き上げ、青い炎を吹きあがらせる。
そのままの勢いで迫る金属杭を一気に全て斬り裂きその温度でもって、融点すら一足飛びに超えて蒸発させる。
「そうだよな。アイリスならそうするよな」
「ユキト……っ!!」
凄まじい灼熱の中を、ブースター翼で一気に往人が迫ってきた。追い詰められたアイリスが一気に金属杭を消滅させるであろう瞬間を狙って。
剣はまだ地面に突き刺さったまま。
だから振るうのは自身の拳。
真っ直ぐ突き出された拳が、魔力の噴射を乗せ威力を増幅したその拳がアイリスを力強く捉えた。