162話 天を統べし王 V.S. AILYS part3
「もう対策をされる……っ!!」
噴射点の変更。背中から噴射している魔力を、肩や肘などに微細に変更することで無理やりではあるが軌道を変える。
それによって真っ直ぐにしか動けない欠点を補ってきた。
ちょっとの攻防で、すぐに対応策を構築する。その適応能力の高さには、アイリスも舌を巻く。
「このまま押し切るっ!!」
今度はふくらはぎや太ももへと噴射点を変え蹴りの威力を増幅させて攻撃を加える。
今の往人の技量では、身体強化魔法を使うよりもこの方が威力が出る。
「させないっ!!」
アイリスの防御魔法がそれを阻む。凄まじい速度の蹴りだが、まだまだアイリスから見れば見切りやすい。
的確に、必要最小限の障壁で蹴りを防いでいく。
さらに――
「うわぁっ!?」
障壁ごと迫る往人の足を掴み取り、そのまま真横へと投げ飛ばす。
スラリとした体からは想像もつかないほどの膂力。彼女の身体強化魔法がそれだけ優れていることの証左でもあった。
「はっ!!」
転がる往人へ、手心など加えてくれるはずもない。迫る拳の連打を往人は防御魔法で防ぎながら立ち上がり、まるでスパーリングパートナーのように受け流していく。
「守ってばかりでは勝てないぞ!!」
「くっ……攻め手が!!」
一度、アイリスに手番を渡すと往人には防戦一方になってしまう。
先ほどは何とか攻勢に移れたが、今度の打撃はそのすべてが必殺と言ってもいい。
これではわざと攻撃を受けたところで、そのダメージで攻めに転じるどころではなくなってしまう。
「さあ、ここから手番を奪うんだ!!」
そう言いながら、ラッシュの速度がさらに上がる。ほとんどなすがままである。
「っ!! そうか!」
突き出されるアイリスの拳。そこへ往人は真っ直ぐ顔面を差し出す。
通常であれば、そんなことをすれば良くて気絶。下手をすれば体と頭がサヨナラをしてしまう可能性すらある。
「ほう……」
だが、そんなことにはならない。
往人は突き出した額に防御魔法を展開し拳を顔面で受け止める。そのままアイリスの腕を掴み取る。
「投げ飛ばすか? 私みたいに」
「いいや、こうするさ」
投げ飛ばしたところで、アイリスはすぐに体勢を立て直して手番を奪いに来る。
ようやく掴んだ僅かなチャンス。これを後へも繋がるように最大限に活かすのなら――
――バヂヂヂヂヂ!!!!
凄まじいスパーク音が舞台へと響き渡る。
往人の手から放たれた雷撃がアイリスの全身を貫く。
「があああ!?!?!?」
さらに、追撃の蹴りがアイリスへと迫る。だが、その速度は遅く躱すことは容易。
アイリスはそう考えていた。
「なっ!? 体が……っ!!」
思いとは裏腹に、往人の蹴りがアイリスを直撃する。
よろめくアイリスへと、今度は往人が拳のラッシュを見舞う。
「雷撃で私の体の自由を……っ!!」
「今の俺がアンタについていくにはそうするくらいしかないんでね!」
往人が放った雷撃の魔法。威力はそれほど高くはないが、代わりにその身の自由を一時的に奪う麻痺効果が付与されていた。
速度と精密性で負けている、すぐに追いつくことも難しい。ならば、相手を自分と同じ領域にまで引きずり下ろす。
「ふっ……」
「何か変か?」
攻撃を受けているのに、どこか嬉しそうに笑うアイリス。
「いいや、キミの成長速度はやはり凄いな、と思ってさ。だからこそ、さらに一歩進めるぞ」
アイリスの姿が消える。
「なっ……早すぎる!?」
麻痺の効果は一時的。いずれ普通に動かれてしまう。
それは分かっていたが、それでも早すぎる。往人の見立てではまだ数刻の猶予はあるはずだった。
「そうだな。まだ体は上手く動かないさ。体、はな」
そう言ったアイリスの姿は宙に浮いていた。
そう。彼女は『天族』である。その背に白く輝く翼をはためかせゆっくりと剣を抜く。
魔力の塊である白翼には、麻痺効果も効かない。
往人のブースター翼には速度では敵わない。それでも縦横無尽の機動性を携えた白翼が舞台を翔ける。
「はあああ!!!」
ギラリと光る剣が往人へと横一線に迫る。
「くっ……喰らう訳にはいかない!!」
咄嗟に往人も剣を抜き、炎を纏わせる。
ガギィン!! と金属がぶつかり合う鈍い音が響く。
幸いにして、アイリスは白翼を展開し続けなければまだ上手くは動けない。つまりは剣へと魔法を纏わせることは出来ない。
「ここは、臆せず攻めるっ!!」
往人は剣に纏わせている炎の出力を急上昇させる。
ブースター翼同様に、噴き出す炎が往人の体を運び出す。
炎によるブースターブレードと化した剣がアイリス目掛けて横薙ぎに振られた。