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161話 天を統べし王 V.S. AILYS part2

 「すげぇ……元通りになるもんだな」

 往人は闘技大会の舞台に立ち、そんな感想を抱いた。

 スピネルの魔法の影響で、冷え固まった溶岩と化した舞台。それがこの三日の間に元の状態に戻っていたのだ。

 


 「さあ、登場いたしましたのはユキト=カミシロ選手。圧倒的な力でスピネル選手を下した驚異のファイターだ!! 今回もその圧倒的な実力を見せつけるのか!!」

 進行役の男も元気に叫んでいる。

 正直に言えば、この男はあまり往人にはいい印象を抱いていない。

 この大会がショーだということを理解せずに即効で試合を決めるし、挙句の果てには進行スケジュールまで無視して暴れる始末である。

 皇帝の意向がなければ失格となってもおかしくはない。

 「……おっと、いけない。さあ!! それに対しますはこちらも圧倒的な実力を誇るアイリス選手! 惜しくもスピネル選手との闘いには破れましたが、ここで勝ちを収めて二週目に回せるか!?」

 (というか、二週目に入ってくれないと今大会はイマイチ盛り上がりに欠けるよ……)

 往人とアイリス。凄まじい実力を有した二人が、そろいもそろってあっという間に試合を終わらせてしまうため、今回は評判があまり良くない。

 観客たちが見たいのは血みどろの闘いなのであって、強者の一人勝ちではないのだ。

 それでも相手を惨殺したりすれば満足もしてくれただろが、二人とも気絶に留めてしまう。

 そのせいでクレームも入ったりしているのだ。

 「両者出揃いました。ここから一体どういった闘いを我々に見せてくれるのか! 試合開始ぃいい!!!」




 銅鑼の鐘が響く。

 二人は言葉を交わすことなくぶつかり合う。

 「はあっ!!」

 まずはアイリスが先制。放った蹴りは腰を低くした往人に躱される。

 だがそれでよかった。

 「っ!? うわっ!!」

 追従した大気の流れは、凄まじいうねりとなって往人を宙へと浮かせる。

 そのままがら空きとなった背へと、アイリスが追撃の拳を見舞う。

 「があああ!!!」

 地面の上を転がる。重すぎる。鈍器で殴られたのでは、と錯覚するような激痛が往人を襲う。

 一切の手加減はない。

 本気の『女神』の一撃に、怯みそうになるが押し殺し往人は背から爆発的な噴射を発生させる。

 

 ブースター翼。


 戦いの中で往人が身に着けた彼なりの魔法。

 アイリスと同じ『天族』のウートガルザにも通用したこの力。

 速度を乗せた拳がアイリスの顔面へと迫る。

 「甘い」

 しかし、地へ這いつくばっていたのは往人の方だった。

 (反応された……!?)

 そうではなかった。

 「確かに速いが、それだけだ。軌道は簡単に読める」

 ブースター翼の最大の特徴。

 それは直線軌道の速度である。いかなアイリスと言えど、その速度に反応するのは不可能。それほどに往人の使うブースター翼の速度は凄まじいものである。

 しかし、それが欠点でもあった。

 凄まじいまでの速度を有するが故に、途中で曲がったりといったことが不可能なのだ。

 その為、噴射した時点で往人がどの方向へ動こうとしたかを確認すれば、向こうから拳へと飛び込んできてくれるのだ。

 「戦いに於いて、一番重要なのは出力じゃない。精密性だ」

 そう言って、アイリスが往人の眼前に迫る。そのまま繰り出される拳のラッシュ。

 威力は高くない。往人でも十分受けきることができるほどだった。

 だが、その精度は青ざめるほどに正確だった。

 往人がどう避けるかまでも予測して的確に撃ち込んでくる。一発一発が、まるでオートメーションの機械のような精密性で往人を狙ってくる。

 まだアイリスは剣を抜いていない。それでもこれだけの実力をまざまざと見せつけてくる。

 改めて、『天界』という場を治める彼女の実力をいやというほどに感じる往人。

 


 「アイリスおねえちゃん、スゴイね……」

 「ええ、そうねぇ。何も、あんなに本気にならなくてもいいじゃないのにぃ」

 控室から見ていた、リリムスとクリスがそう言った。

 ほとんど一方的な試合運びに、見ているこっちが辛くなってくる。

 「まったく、何が学びを与えるよぉ……あんなスパルタなやり方、誰も喜ばないわよぉ」

 


 「くっ……避けられない」

 違う。

 避けられないのではない。自分がアイリスの拳に飛び込んでいる、と言った方が正確である。

 アイリスの放つ打撃、そのすべてに当たっているわけではない。何発かに一発が当たっている。

 それは往人の動きを追い詰め、躱す余地を失くすための捨て石の拳。だからこそ、威力も速度も乗っていない、乗せていない。

 本命の一発に、ちゃんと威力と速度を乗せ撃ち込む。

 「だったら……っ!!」

 往人が取るべき手は一つ。捨て石の一撃にわざと飛び込む。

 そして、少し仰け反ったところにそれを利用して、足からブースター翼を噴射させて仰向けに距離を取る。

 「うっ!?」

 それほどダメージには繋がらないが、一瞬アイリスの気勢を削ぐことには成功する。

 「そのままっ!!」

 反転。背中から勢いよくブースター翼を吹きあがらせ、往人は翔ける。

 「それは効かないっ……なにっ!?」

 置いた拳は、何にもぶつからなかった。


 代わりに、アイリスの横から繰り出された蹴りがアイリスの肩へと直撃した。

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