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160話 天を統べし王 V.S. AILYS

 「う……」

 アイリスが目を覚ましたのは、控室のベッドの上だった。

 記憶にあるのは、巨大な炎塊を防ごうと防御魔法を使ったこと。その先は熱気と痛みでほとんど分からない。

 しかし薄れゆく意識の中でも、何か黒き力の胎動を感じていたのは覚えている。

 「あら、やっとお目覚めぇ? お寝坊さんねぇ」

 「貴様……」

 そばにいたのはリリムス。退屈そうに読んでいた本を置き、仇敵であるアイリスの体の様子を確かめている。

 「ふんふん、身体機能には問題なさそうねぇ」

 「何が、あった……?」

 大人しく体を預けながらアイリスは聞く。リリムスがこうも献身的に自分に対して尽くすのは何か事情がある。

 それも、恐らくは往人(ゆきと)に絡んだ事情が。



 「別に。最終戦の三回戦目、それが行われるってだけよぉ」

 「三回戦目? そうか……私とユキトか」

 アイリスと、あのスピネルと呼ばれた少女との闘いはアイリスが敗北した。

 その後で往人とスピネルが闘い、そして往人は勝ったのだろう。そうでなくてはスピネルが二勝して優勝しているはずだから。

 「あの黒き胎動はユキトの魔導書か……」

 「あら、気づいていたのぉ? ホントに大変だったんだからぁ。アナタがやられた後、ダーリンたらブチギレちゃってぇ……」

 「そうか……」

 また無理をさせた。

 往人に負担を押し付ける形になってしまったのをアイリスは悔やむ。

 「そうだ、ユキトはどうした? クリスもいないようだし……」

 「ダーリンならちょっとご飯よぉ。クリスもついていったわぁ。アナタの、そのあられもない姿を見るのは気恥ずかしいみたいねぇ」

 そう言われ、ようやく自分が一糸纏わぬ姿なのを自覚する。

 「なっ……!? これは……」

 「だぁって、仕方ないでしょう? 眠っている間に体をキレイにしないといけないんだしぃ」

 「だからといって、こんな……」

 詰め寄ろうとするが、今のアイリスは文字通りの無防備。そんな状況ではとてもではないが何かをすることは出来ない。

 「おい、私の服は何処だ!」

 


 「戻ったけど、もういいか?」

 アイリスが服を着たタイミングで往人が帰ってきた。

 「あら、もうちょっと早く帰ってきたらイイものが見られたのにねぇ?」

 「貴様……!!」

 顔を真っ赤にしてリリムスを睨むアイリスを見て、往人は大体何があったかを察する。

 「はあ……ま、それだけ元気なら安心したよ。なにせ、二日も眠っていたからな」

 「なに? そんなにか……思ったよりもダメージをもらっていたのか」

 「というよりも、アナタの弱体化が大きな要因ねぇ」

 そう言って、リリムスがアイリスの白く美しい腕をとる。

 「ワタシみたいに受肉していないから、その分疲労も大きいのよねぇ」

 そう。『天族』と『魔族』は人間界では大きく弱体化する。何もしないでは自身の存在すらも維持できないほどに。

 それを補うのが『契約』、もしくは『受肉術式』なのである。

 しかし、アイリスは『女神』。往人との『契約』だけではその存在を維持するのが精一杯なのである。

 その為、こうしている今もリアルタイムで弱体化は進行していると言っても過言ではない。

 「かと言って、私まで受肉するわけにもいかないだろう」

 一応は『霊衣憑依(ポゼッション)』をすれば、『契約』を交わした時点までは弱体化はリセットされる。

 リリムスが『受肉術式』によって土塊(つちくれ)の肉体に縛られている現状では、アイリスが最高戦力である。

 いつ追手が来るかも分からない中では、おいそれと『受肉術式』は使えなかった。

 


 「ま、それはおいおい考えるとしてぇ。延期になっている三回戦目、アナタたちどうするのぉ?」

 リリムスが二人を見てそう言った。

 アイリス対スピネル、往人対スピネルはすでに終わっている。残りは往人対アイリスなのだ。

 しかし、それをそのまま進めるには一つ問題があった。

 「このまま闘って、アナタが勝てば全員が一勝一敗でもう一回総当たりをやるそうよぉ?」

 そう。最終戦は三人の中で勝ち数が一番多い者が優勝になる。すなわち、勝ち数が同じうちは幾度となく闘わなければならないのだ。

 「私が棄権すれば自動的にユキトが優勝になるという訳か……」

 もちろん、そうするのが正しい選択なのだろう。 

 往人たちの目的はあくまで『魔導書』。その為には不必要に闘いを重ねるのは得策ではない。それも、仲間同士や得体のしれない少女との闘いなど。

 


 「……俺は、アイリスと闘いたい」

 そう言ったのは往人だった。

 「ダーリン……」

 「ユキト」

 「俺はスピネルとの闘いで魔導書の力に振り回されてしまった。こんなんじゃあ、皆を護れない。だから、俺はもっと強くなる。その為にも学べるチャンスは使いたいんだ」

 その言葉を聞き、アイリスは優しい笑みを浮かべた。

 「分かった。そうまで言うならば闘おう」

 「アナタ……本気ぃ?」

 リスクを考えれば、リリムスの反応が自然だろう。だが、それでもアイリスはそのリスクを取るべき理由があった

 「邪魔が入らずに、ユキトへと学びを託せる場は少ないからな。ここで一気に強くなってくれればメリットも大きい」

 そう言ってベッドから立ち上がり、手を伸ばすアイリス。往人もそれに答える。

 「本気でいくぞ?」

 「ああ、望むところだ」


 二人の闘いの時は、もうすぐそこまで迫っていた。

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