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154話 闘いが呼ぶモノ Danger_Grimoire. part5

 バタン! と勢いよく扉を開いて、廊下へと出ていくリリムス。

 「おい! リリムス!」

 慌てて追いかけた往人が見たのは、蒼白になった彼女の美しい顔だった。

 それは恐怖にも、困惑にも捉えられる表情だった。

 「待てよ、一体何が……」


 ――反射魔法。


 リリムスは先ほどの子供が使った魔法のことをそう言っていた。

 字面から推測するに、それは相手からの攻撃を反射する魔法なのだろう。

 確かに、ダラムスが受けていた衝撃は自身があの子に放った棍棒による一撃と考えれば合点がいく。

 だがそれを見て、なぜリリムスがそんなに驚いているのか。その答えはリリムスが放った一言に込められていた

 

 「……あのレベルの反射魔法はワタシだった不可能なのよぉ」 

 

 その一言で、往人にも先ほどの光景の異様さが理解できた。

 リリムスは『魔族』の王。魔法の秘奥を究めし者。

 その彼女が『不可能』と言ったのだ。

 それは他の誰にも出来るはずのない魔法と同義である。もちろん、マルバスの『毒の力』のように、それ以外のほぼすべてを投げうって得た魔法などは例外で存在するが、反射魔法はどちらかと言えば汎用的な魔法である。

 習得も『魔族』なら比較的簡単に、人間であっても使うことのできる者もそれなりにいるだろうものである。

 とてもではないが、他を差し出して『魔王』を超えるほどのものにするような魔法ではなかった。

 それも、人間の子供が究めるなど百パーセントあり得ないと断言することもリリムスには出来るほどだった。

 (だというのに、なんで……?)



 最初は高精度の防御魔法なのかとも思った。もしくは虚像を作り出す魔法か。

 反射魔法がなぜ防御魔法よりも広まっていないのか、それは防御性能が向上しないからである。

 『反射』とは言っても、攻撃を『無効』にするわけではない。言ってしまえばダメージの共有に近い魔法なのである。

 だが、あの子供はダラムスの攻撃を完全に無効化していた。それも長時間攻撃を記憶し、それを全て反射していた。

 (あの子は危険すぎる……いいえ、すぐさま排除する必要すらあるわぁ)

 どこまでの攻撃を無効化出来るのかは未知数ではある。しかし、『霊衣憑依(ポゼッション)』した『魔王』の力ならとリリムスは思う。

 「ちょっと反則だけど、先にあの子を殺すわぁ」

 「は!? そんなに危険なのか?」

 当然、往人からはいい返事が出るはずはない。試合による殺害とは違う、完全な場外乱闘。

 そんなことをすれば失格になるのはほぼ必至である。

 「あの子と、ダーリンが出場できなければ自動的にあの女神サマが優勝だわぁ。魔導書も手に入るし、問題はないわぁ」

 いい顔はしないでしょうけどねぇ、とアイリスの反応を考えながらも、足を止めることはないリリムス。

 それほどまでにあの反射魔法、というよりはそれを行使する子の方に恐怖しているようだった。

 


 「部外者に勝手にウロウロしてもらっては困るな」

 その時、声と共に男が現れた。

 深い群青色の鎧を身に纏い、彫りの深い顔立ちに鋭い目つきをした壮年の男。

 『メロウ帝国』の正規騎士団団長、バルカン=レイバス。

 それが、リリムスたちの前に立ちはだかった。

 「どきなさぁい。ちょっとしたケガでは済まないわぁ」

 しかし、それを知らないし、知ったところで止まるはずのないリリムス。紫雷を杖に迸らせバルカンへと突きつける。

 「おい! やり過ぎだぞ!」 

 往人が止めに入るが、すでに遅いとばかりにバルカンが腰から下げた剣を抜く。

 「警告はしたぞ」

 「コッチのセリフよぉ」

 リリムスが先に動いた。紫雷が杖より放たれ、矢となってバルカンへと襲い掛かる。

 「ぐぁあああ!!」

 当然、バルカンは普通の人間。いくら弱体化していようと『魔王』の一撃を喰らって無傷ではいられない。

 しかし――

 「ぬぅうん!!」

 「なっ……!?」

 気合を込めると同時に立ち上がる。そして、取り落とした剣を拾うとリリムスへと斬りかかってきたのだ。

 まるで今のダメージがなかったかのように。

 


 「どうなって!?」

 困惑するのはリリムス。そしてそばで見ていた往人も同様である。

 確かに目の前の男はリリムスの矢を受け膝を突いた。まともに動けるはずはない。

 「はぁあああ!!!」

 だが、男は現実として立ち上がり襲い掛かって来る。驚きで固まっている暇などありはしない。

 「このっ……!!」

 リリムスは剣を躱すと杖先から火球を放つ。

 どうせコロッセオは石造り。大火事にはならないだろうと連射していく。

 「むうっ!!」

 バルカンはまたも躱すことは出来ずに、ほぼすべての火球にその身を晒していく。

 肉の灼ける嫌な臭いが狭い廊下に立ち込める。

 「だが……うぅあああああ!!!!」

 苦しそうに呻きながらも、バルカンは再び立ち上がった。

 そしてまたも何事もなかったかのように斬りかかる。

 「……何よ、コイツ……ッ!!」

 


 「はあっ!!」

 迫るバルカンへリリムスがさらに攻撃を加えようとした、その時。

 往人が間へと立ち斬り結ぶ。

 「一旦退こう! なんかヤバい!」

 バルカンを蹴り飛ばすと、そのままリリムスを抱え往人は背からブースター翼を噴射する。

 狭い廊下で体をあちこちぶつけながらも、無視してもと来た道を進んでいく。

 


 「……逃がしたか」

 ブースター翼の噴射に阻まれ捕らえることの出来なかったバルカンが憎々し気に呟く。

 そこへ豪奢な衣服を身に纏った青年、皇帝サンドロスが現れた。

 「放っておけ」

 「陛下、よろしいので?」

 片方は大会出場者。調べればすぐに捕らえることも出来るがサンドロスは楽しそうに笑いながら言った。


 「その方が面白くなるだろ?」

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