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153話 闘いが呼ぶモノ Danger_Grimoire. part4

 「さぁ、残る枠はあと一つ! 一体どちらが最終戦へと進むのか! まずは一人目、その巨体から繰り出される棍棒の一撃は強力無比。対戦相手を(ことごと)く殺してきた殺人ファイター!! ダラムス=サンドバーン選手だあ!!!」

 

 ――ワァアアアアアアア!!!!!


 出てきたのは上半身裸の、身長は二メートルを優に越す大男だった。

 右手に握られた棍棒も、木製ではなく鈍色の金属製。しかも対戦相手の血だろうか、べっとりと赤黒い汚れが付着していた。

 


 「うぇ……悪趣味ぃ」

 棍棒を振り回し咆哮するダラムスを軽蔑するように吐き捨てるリリムス。

 物事は耽美(たんび)でありたいと考える彼女にとって、それとは対極にいるようなあの大男は見るに堪えない存在だった。

 往人やアイリス、クリスはおろか、あのロクサスも呆れたような顔をしていた。

 「いや、まったく下劣だね。闘うことよりも殺すことを主目的にするなんて愚の骨頂だよ。あんな男が勝ったところで魔導書を使えるはずがないのにね」

 「そういえば、つかえない魔導書なんてなんでほしいの?」

 ふと、クリスがそんなことを呟く。

 往人やリリムスは、実際に『魔導書』の力を行使できるから、欲するのは理解も出来る。

 しかし、普通の『異界人』ではない者に『魔導書』の力は扱うことはできない。

 逆に、その強大な力に負けて魂を破壊しつくされるだけなのだ。

 そんな危険な代物をなぜ求めるのか。

 


 「あんな古臭いモンいらないよ。賞金が欲しいのさ。魔導書だかはどっかの研究家にでも売るんだろ?」

 そう。大会に出る者のほとんどは『魔導書』ではなくもう一つの賞金が目当てだった。

 魔力を貨幣の代替品にするシステムはあれど、まだ貨幣価値が無くなったわけではない。

 人間には使えない至宝(ガラクタ)よりも、分かりやすい賞金の方がいいという訳なのだった。

 「あれ? もしかして魔導書の方が欲しかったのかい? ああ、そうか凄い魔法を使うものな。それもそうか」

 「あ、ああ。そうだな、まぁ賞金よりかはな」

 適当に誤魔化し、往人は舞台へと視線を戻す。

 すでにもう一人の選手の紹介が終わって、いよいよ銅鑼が打ち鳴らされようとしているところだった。

 ダラムスと相対するのは、まだ十歳にも満たないのではというような小さな子供だった。

 薄汚れた灰色のローブのフードを目深に被っているので性別は分からなかった。

 「あんな小さな子がどうやって本戦に……?」

 「ん? ああ、あの子か。あれも多分魔導書の方を欲しがっている子だと思うよ」

 ということは魔法使い。

 確かに、ローブから除く細腕に握られているのは杖。先端に星の装飾が施された、有体に言えば子供のおもちゃのような杖だった。

 往人にはますます、あの子がなぜ本戦に出場できたのか分からなくなった。

 

 ――ガァンン!!


 その時、激しい銅鑼の音が鳴る。

 ダラムスがその手にした棍棒を横薙ぎに振るう。小さな子供だろうと容赦はしないとばかりに、嗜虐に歪んだ下卑た笑みで。

 巨体に見合う膂力(りょりょく)が生む速度は、当然小さな子供に反応できるようなものではない。

 あっけなく子供の体に棍棒が叩き込まれる。

 「……?」

 怪訝な顔をしたのはダラムス。

 自身の得物による一撃が決まったのだ。目の前には血だまりと吹き飛んだ肉塊、それと興奮した観客の声がなければおかしかった。

 だが、ダラムスの前に在るのは変わらず薄汚れたローブを纏った子供の姿。

 横薙ぎの棍棒を受けても、身じろぎ一つせずに佇む小さな姿だった。

 


 「なんだ、あの子?」

 「俺にも分からない。ちょっと仕掛けたけど、ヤバいと思ってすぐ離れたからね」

 アイリスも同様だったのか、往人の視線に首を横に振った。

 その得体のしれなさに、一番困惑していたのは対峙するダラムス本人だろう。

 怒りか恐怖か、咆哮し棍棒をメチャクチャに振り回し子供へと向け叩きつける。

 それはほとんど狂気的と言ってよかった。

 何かに取りつかれたように棍棒を振るうダラムスの姿に、さしもの観客たちも息を飲んでいた。

 だがそれでも、そこまでしても子供は傷はおろか、身に纏うローブに乱れ一つ付けることは叶わなかった。

 まるでホログラムのように変わらずそこに立っていた。

 その光景に、ダラムスが一歩後ずさりをしたその時だった。

 細腕に握られた杖がスッと振られる。ほんの一瞬杖先の星飾りが光る。

 


 「ギャァアアアアア!?!?!?!?」

 ダラムスが急に頭を抱えてのた打ち回った。この世のものとは思えない凄まじい叫び声を上げて舞台上を転げまわる。

 その顔は恐怖と苦痛で歪み、汗と涙でグシャグシャに汚れていた。

 しかしその内に、ダラムスの全身が真っ赤に染まり始める。

 最初は転げまわっているから擦り剥いたのかとも思われたが、それにしては出血量が多すぎる。

 まるで、何かに全身を殴りつけられているかのようにあちこちから夥しい量の血を流していたのだ。 

 「あれは……一体」

 「まさか!?」

 張り付くように舞台を見下ろすリリムス。その顔は驚きと困惑で彩られている。

 「反射魔法……!?」

 


 ダラムスの動きが止まる。それは彼の命の鼓動が停止した事を意味していた。

 しばし遅れて銅鑼が鳴らされる。

 だが、歓声が上がることはなかった。あまりの光景に観客たちも驚きで声を出せなかったのだ。


 そして、最終戦のメンバーがこれで決まったこととなった。

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